Page1.プロローグ(交易都市リューン)

「活気のある町だな」

 市街への門を抜けたところで、オレは立ち止まった。
 想像していた以上の喧騒、活気。人ごみに慣れない田舎者では眩暈がしそうな程だ。
 「交易都市リューン」。その名が示すように陸上交通の要衝に位置し、人や物資、文化等々の流通拠点や中継地として賑わっていると聞く。
 そして、このリューンは「冒険者」という職業の者たちが多く集う場所としても知られているらしい。
 あまり素性を詮索されたくないオレでも、この街なら滞在できると踏んで遠路遥々とやって来た。
 他に当てが無い事も無いが、出来る事なら最後の手段にしておきたい。

 そして、オレがこのリューンに来た理由はもう一つ。冒険者になりたかったから。
 ある出会いをきっかけに「冒険者」という仕事、生き方に興味が生まれた。

「・・・かつては望むべくもなかった生き方だが、今なら―――!?」

 横から頭を小突かれて我に返る。オレを小突いたのは、愛馬のロシナンテ。故郷からずっと一緒に旅をしてきた相棒だ。
 事情により、オレは身元の割れるものは何も持たずに故郷を出た。使い慣れた剣さえ置いて、文字通りに身一つで出発するはずだったのだが、彼は一人残る事を拒み、説得も頑として聞き入れずにここまでついて来た。心強い道連れだ。

 目的地に着いて、柄にもなく感傷的になったのだろうか。賑やかな町の往来で、馬を引いてぼんやりしていては邪魔もいいところだ。
 日が暮れる前に片付けるべき事がいくつかある。ロシに急かされ、オレは大通りを歩き始めた。





 歩きながら、すべき事を考える。まずは何より、今日の宿。出来れば、当面世話になる冒険者の宿。次に、必要なものを入手出来そうな店。雑貨屋、薬屋、武具屋等々。
 急ぎではないものの、ロシを預かってもらえそうな場所も。牧場となると町の外になるだろうか。
 数日ならば厩舎でいいかもしれないが、狭い場所にずっと押し込めるのは可哀想だ。

 リューンは大きな町だけあって店や施設も多い。
 闘技場では剣技や気功らしき技の指南をしていた。特に賭け事を好む方ではないが、覗いてみる。

「そこの若いの、『居合斬り』は覚えていって損はないぞ」
「ん?居合って・・・東方剣の技じゃないのか?」

 オレは声をかけてきた男に返事をした。引退した剣闘士だろうか。
 刃に気を込めて攻撃する「居合斬り」はこちらではポピュラーな技らしい。鞘から引き抜きざまに切りつけるイメージを持っていたのだが、どの道、現在のオレの実力では敷居が高そうだ。

「非実体も斬れるのは魅力だけどなあ」
「だったら『掌破』はどうだ。威力は少し落ちるが扱いやすい。素手で発動できるぞ」
「気功か・・・」

 オレはそこそこ腕力はある。が、平均よりは上というくらい。汎用性の高い技は欲しい所だ。る。
 剣を新調したばかりでもあり、後は習熟しながら技の難度を上げていけばいいだろう。銀貨を袋から取り出し、男に手渡した。





 闘技場を出ると、特徴的な建物に目に入ってくる。聖北教会。西方世界で最大の教会組織だ。
 だが巨大な組織であるがゆえに、一部では深い闇を抱えていると聞く。統制の及んでいない部分もあるだろう。
 オレ自身、色々と教会組織には嫌な思い出があり、出来る事なら近づきたくない。

 教会から離れた区画で存在を主張しているのは賢者の塔。魔術や古今東西の知識を求める者が集い、研究を重ねているという。
 外部の者に、魔術の心得が無くても発動する魔法を教えてくれるらしい。
 ここでは防御力を一定時間高めてくれる「魔法の鎧」という術を習得した。オレは身軽に敵の攻撃をかわす戦い方ではないから、使いどころが多いはず。

 精霊宮という神殿風の建物もあった。
 田舎で生まれ育ったオレにとって、精霊は馴染みのある存在。だが、ここで交信可能な精霊は、熟練を要するものばかりのようだ。
 いずれにしろ、剣士であるオレが通う場所ではあるまい。

 盗賊ギルドの符丁も目立たない場所にある。
 さすがに大きく看板を出せるものではないが、日々の生活のすぐそばに、法の及ばない世界は存在する。
 そこで秩序を保っているのが、盗賊ギルドのような集団であるというのは厳然とした事実。必要悪ともいう。
 オレが冒険者として生きるのならば、むしろ避けて通れない場所とも言えるのかもしれない。

 大きめの雑貨屋を見つけて、傷薬などの細々した物を購入した。
 神の秘蹟とやらに頼らないのであれば、聖水も持ち歩かなければならない。
 驚いたのは、コカの葉が普通に流通してる事。この辺りでは薬草扱いのようだ。
 中毒性があるから多用は避けなければ。





 気の向くままに通りを歩いていると、おもむろにロシが立ち止まった。どうやら、ある店の前の花壇がロシの気を引いたようだ。
 店と同様に花壇も大きなものではないが、小綺麗でよく手入れされている。
 花の前でフンフン鼻を鳴らすロシの姿が見えたのか、店の中から少女が出てきた。

「こんにちは!」
「やあ、こんにちは。店の前で邪魔になってしまったかな」
「いえ、お気になさらず」
「探し物をしながら歩いていたら、相棒がこの花壇が気になったようでね」
「そうでしたか。かわいいお馬さんですね!」
「♪~」

 少女はロシに向かって微笑んだ。さしずめ、この店の看板娘といったところか。

「ここは何を扱ってるお店かな?」
「雑貨屋なんです。傷薬とか、ちょっとした御菓子や小物などです」
「あー・・・」

 残念ながら、大通りの雑貨屋で買い物を済ました後だ。
 バツの悪い思いでその事を告げると、少女は嫌味のない笑顔を見せた。

「ふふ、残念ですね。ご入用があれば、うちのお店も覗いてみてくださいね」
「次は是非、そうさせてもらうよ」

 もう少し懐に余裕があればこの店でも買い物をしていくのだが。
 思いの外に散財してしまった事もあり、ここは控えたい。

(そういえば、いつまでも立ち話をしていられないんだよな)
 
 ゆっくりと話していたいのだが、今日の宿を決めていないのを思い出す。
 後ろ髪を引かれる思いで、オレは用事がある事を伝えた。

「そうだったんですか?お引止めしてごめんなさい」
「いやいや、お邪魔したのはオレ達だから。
 でも、出来れば暗くなる前に冒険者の宿を見つけたいんだ」
「あら?それでしたら・・・」

 少女は通りの反対側にある建物を指差した。
 この雑貨屋からは斜向かいの場所に、少し大きめの看板がかかっているのが見える。 

「『瞬く星屑亭』という宿が、そこですよ?」
「ほう!」

 どうやらロシが、幸運の女神様を釣ってくれたようだ。あっさりと用事が片付いてしまった。

「そこの冒険者の方も、うちにお見えになりますけど、いい方ばかりです。
 宿のマスターや娘さんも。ご案内しましょうか?」

 オレは慌てて手を振った。
 買い物もせずに看板娘を案内に使うわけにもいかない。

「いや、目の前だから。自分で行ってみるよ」
「では私も、そろそろお店に戻ります。また来てくださいね!」
「ありがとう。助かったよ」

 少女はペコリと頭を下げ、店の中に戻っていく。
 オレは少女を見送ってから、目の前の宿に歩き出した。

 冒険者の宿というもの自体、入るのは初めてだ。
 適当な所を覗いてみればいいと思っていたが、こういう縁で決めるのも悪くない。
 尤も、部屋の空きや冒険者の募集があるかもわからないのだが。





「ロシ、ここで少し待っててくれ」

 往来の邪魔にならない場所にロシを待たせて、宿の扉を引こうとしたその時。
 扉は勢いよくこちら側に開いた。

「おっと」
「あっ!!」

 開いた扉の向こうには、さっきの店とは別の少女が、驚いた様子で立っていた。

「済まない。同時になったようだ」
「いえ、お客さんかしら?親父さんなら中にいるわよ」
「ありがとう」

 少し自分の立ち位置をずらし、少女を外に通してから宿に入る。
 どこかの令嬢かと思ったが、冒険者なのかもしれない。魔力が感じ取れた。少なくとも、オレよりずっと上の実力者だろう。

 宿の中は、ごく普通の食堂のような作りになっていた。
 奥に見える階段を上がると客室なのだろうか。
 カウンターの中で、頭頂部の薄い男がこちらを見ている。彼が恐らく「親父さん」なのだろう。
 オレはカウンターに歩み寄り、男に声をかけた。

「こんにちは、オレはベルント。今日リューンに来たばかりで、とりあえず宿を取りたいんだが、泊まれるかい?」
「ようこそリューンへ。儂の事は『親父』とでも呼んでくれ。部屋なら空いているが、すぐに行くか?」
「まずは荷物を置かせてもらいたいね。それと、馬がいるんだが・・・」
「ほう!自前の馬で旅行とは、お大尽だな。大丈夫、つなぐ場所はあるさ」

 ロシも夜露をしのげそうで、一安心だ。
 しばらく世話になるのも、いいだろうか。

「助かる。そこの雑貨屋の娘さんに、いい冒険者の宿だって聞いてね」
「ははは、そうかい。冒険者の宿に来たという事は、仕事をしたいという事かな?」
「ああ。冒険者の経験は無いが、剣は少し使える」
「ふむ・・・まずは部屋に荷物を置いてくるといい。話は一息ついてからでいいだろう」
「お父さん、お客さんなの?」

 不意にカウンターの奥、厨房のほうから声が聞こえた。
 若い女性が顔を出す。

「ああ、すまんが彼を部屋に案内してくれんか」
「はーい」
「ベルント、うちの娘だ。ついていってくれるか」
「わかった。よろしく、娘さん」

 案内されたのは、少々手狭だが掃除の行き届いた清潔な部屋だった。休むには何の問題も無いだろう。
 荷物袋を床に置き、ベッドに寝転んだ。

「まずは親父さんと話をして・・・何とかなりそうかな。それよりも!」

 ロシを表で待たせていたんだった。さぞかし腹を空かせているだろう。
 オレは慌てて部屋を駆け出した。
 階段を駆け下りながら、もう一つ大事な事を思い出す。

「そういえば・・・今日会った、誰の名前も聞いてないな」

 この宿の親父さんと娘さん、それと雑貨屋の看板娘の名前くらいは確かめておかなくては。










シナリオ名/作者(敬称略)
交易都市リューン/齋藤 洋
groupASK official fansiteより入手
http://cardwirth.net/

収入・入手
傷薬×2、聖水、葡萄酒、コカの葉、掌破(スキル)、魔法の鎧(スキル)

支出・使用
2900sp

キャラクター
(ベルントLv1)
スキル/掌破、魔法の鎧
アイテム/
ビースト/
バックパック/

所持金
4000sp→1100sp

所持技能(荷物袋)

所持品(荷物袋)
傷薬×2、聖水、葡萄酒、コカの葉

召喚獣、付帯能力(荷物袋)

0 コメント:

コメントを投稿

 
;