Page32.Let`s キュウリパーティー!(白亜の城①)

「美味しいです、このキュウリ」
「今年は実りが良くてねぇ。
 笑いがとまらないよ!あっはっはっはっは」

 優しく頬を撫でる風を感じながら、オレ達はキュウリを食べていた。
 目の前では、何が可笑しいのかよくわからないおばちゃんが笑っている。

「ホント美味いや、キュウリ」
「あっはっはっは。いい食べっぷりだねぇ!!」

 ボリボリボリボリボリ。
 キュウリを齧る音の合唱はそうそう聞けるものではない。
 おばちゃんは体をのけ反らせて大笑いしている。
 そろそろ止めた方がいいかもしれない。

「サリマン、もういいんじゃないか?」
「え、もうちょっと・・・」
「いいから好きなだけ食べな!」

 口数の多いサリマンが、話をする暇も惜しんでキュウリを齧り倒している。
 おばちゃんが喜んでいるとはいえ、明らかに食べ過ぎだろう。
 確かに美味いのだが。
 何気にオレの横では、ユルヴァもポリポリ齧り続けている。

 オレ達はリューンの南西に数日の距離にあるレクシス伯爵領まで、名産のキュウリを齧りにやってきた。
 いや、そんなわけはない。
 宿でうだうだしていたら親父さんに捉まり、お使いを頼まれただけだ。
 現在は目的地が見つからず、道中の農家で道を聞いている所。

「要塞だか城だかで、『エシュラー地下城砦』というのがあると聞いて来たんだけどなあ・・・」
「聞いた事ないねえ。でも―――」
「キュウリパーティーだぞ!」
「・・・・」

 テンションのおかしいサリマンを放置し、おばちゃんと話を続ける。
 親父さんから聞いた話では、この辺りにあるはずなのだが。
 メモに書き留めてあるし、聞き間違いではない。
 農家のおばちゃんも知らなかったが、代わりに「白亜の城」と呼ばれる砦がある事を教えてくれた。
 その地下に町があるのだという。

(他に該当しそうなのも無いんだよな・・・)

 行ってみるしかないだろう。
 白亜の城への道は、どうやら通り過ぎてしまったようだ。
 出来れば今夜は野営したくないし、そろそろ出発しようか。

「おばちゃん、ありがとう」
「なんのなんの。気をつけて行きなよ」
「もう一本もらっていい?」
「・・・置いてくぞ」





「すっかりご馳走になってしまいましたね」
「食い過ぎだろ、特にサリマン」
「・・・・」

 ユルヴァに答えながら、視線を逸らしているサリマンを一瞥。
 その手にはしっかりとキュウリが握られている。

 周囲は広大な小麦畑。
 親父さんの話では、エシュラー地下城砦付近は酷い戦乱の最前線だったという。
 目の前の風景を見ると信じ難いが、ここに辿り着くまで通った荒地には、明らかな戦の爪痕が残っていた。

 ここまで農地を回復させるに当たり、「聖リザヴェーダ」という人物が尽力したらしい。
 どこかの聖職者が緑化事業の指揮を取ったのだろうか。
 先刻のおばちゃんはとても感謝している様子だった。

 丘に上がり、山道をひたすら進んでいくと、入り口らしきものが見えてきた。
 城と言うより、山そのものを城砦化したような感じだ。
 「白亜の城」の下にあるのが「エシュラー地下城砦」なのかもしれない。

「ベルント、大分歩きましたね。
 茶色の部分が荒地でしょうか」
「そうだな・・・」

 ユルヴァに呼ばれ、立ち止まって振り返る。
 親切な農家はもう、肉眼では確認できない。
 丘から緑の大地が先へ延び、途中から茶色に変わっている。
 リューンはその、茶色い大地のずっと先。

「ふむ。リューンの冒険者、ベルント一行ですね。
 ようこそエシュラー地下城砦へ」

 入り口で厳重なチェックを受けるのかと思えば、身分証の提示だけで通過が許された。
 尤も、ここは大きな入り口では無いから、戦時中であっても大軍の侵入は不可能だろうが。
 ともあれ、ようやく目的地へ到着。
 おばちゃんに教えてもらわなかったら、どこまでも通り過ぎて国境さえ越えていたかもしれない。

「ところで門番さん。リーザと言う女性はここにいるかな?」

 オレはサリマンから取り上げたキュウリを、門番の兵士に手渡しながら聞いてみた。
 この城に来た目的は、リーザと言う名の女性に親父さんから預かったナイフを渡す事だ。
 別れた奥さんかと思ったら違うらしい。
 そもそも奥さんがいたのかも不明なのだが。
 念の為確認したが、親父さんのハゲダチでもなかった。

「ど、どうも。リーザ、ですか・・・」

 挙動不審な動きでキュウリを受け取る門番。
 城砦の地下にある一つの町。
 そこに住む一人の女性の名を言われた所で、そうそう思い当たるはずもない。
 無理を承知で親父さんから聞いた特徴を話してみる。

「それは・・・リザヴェーダ様かもしれない」
「知ってるのか!?」

 何と、一人にヒットした。
 聞いてみるものだ。

「あ、良ければ案内しましょうか?」
「え?助かるけど、いいのか?」
「大丈夫です。ちょっと待っててください」

 言うなり門番は詰所に入り、同僚に仕事を押し付けて戻ってきた。
 この砦のセキュリティは大丈夫なのだろうか。
 兵士の後につき、階段を下りていく。

(それはそうと、同じ名前だな)

 リザヴェーダという名は、農家のおばちゃんからも聞いた。
 リーザという愛称自体は珍しいものでなく、別人の可能性も高いが。
 もしかしたら、配達先はかなりの偉いさんかもしれない。

 階段の後は、鍾乳洞のような狭い通路を進む。
 薄暗い足元におっかなびっくりのユルヴァに対し、サリマンは苦も無く兵士の後を歩き、あれこれと話しかけている。
 時折、通風孔やら非常時物資運搬用のロープやらが見え、人が暮らしている場所である事を感じさせる。
 じめじめしていて、自分が住みたいとは思わないが。

 しかし開けた場所に出た途端、空気が一変した。
 変わったのは空気だけでない。
 洞窟や坑道のような通路の先に、間違う事なき町が出現。
 集落とか言う規模では無く、明らかに町だ。
 街灯が石畳の街路を照らしている。
 オレ達は山の、文字通りに中へ下りて来たはず。
 大袈裟に驚くオレ達の姿を見て、兵士は誇らしげに胸を張った。

「ここは第一地区。元は軍用区域でしたが、一般の人々に開放されました」

 兵士の説明を受けながら石造りの大通りを進んでいく。
 興味深そうに辺りを窺うサリマン。
 ユルヴァは対照的にぽかんと口を開けたまま。
 古代遺跡を利用して作られているそうだが、それにしても相当な規模だ。

「お探しの女性は中央広場にある植物園にいらっしゃると思います」

 兵士が進む先から、この周囲とは違う強い光が漏れている。
 通りに面した建物にかかっている看板は、酒場兼宿屋、薬屋、雑貨屋など。
 寄れたら後で寄ってみてもいいかもしれない。
 前方の強い光がどんどん近づき、また別の開けた場所に出た。
 そこにあるものを見て、サリマンが驚きを顕わにする。

「これは!」
「サリマン?」
「おかしいと思わないんですか?
 地下なのに植物が育っているんですよ!」

 この空間があまりに自然で、言われるまで気付かなかった。
 そこは広場になっていたが、植物が生い茂り、自然な明かりもある。
 目隠しをされてここに連れて来られたら、地下だとは思わないだろう。

「中央広場です。驚きましたか?」
「驚かないわけがないじゃないか」
「どういう原理でかは知りませんが、お陰で地下でも植物が育ちます。
 気になられたなら、リザヴェーダ様に聞かれるといいでしょう」
「ふうむ・・・」

 魔術的なものなのだろうか?
 仕組みは全く分からないが、これが聖リザヴェーダという人物の業だというなら、この砦の外の荒地を短期間で農地に回復させる事も可能かもしれない。
 思いを廻らすオレに、兵士が言った。

「あの人はおそらく、この辺りにいると思うんですが」
「あ、ああ」

 本題を忘れる所だった。
 何せオレ達は、届け物であるナイフを紛失しようものならツケ六倍とか言う理不尽な依頼の最中。
 ツケは無かったはずなのだが、早くナイフを渡してしまうに越した事は無い。

 オレは広場を見回した。
 目に留まったのはギターを抱えて歌っている男と、そのそばにいる子供。
 子供に近づき、声を掛けてみる。

「何してるんだ?」
「歌聴いてるんだ♪っていうか、誰?」
「冒険者です」
「ふ~ん」

 子供は興味無さそうに答えた。
 目の前では男が歌っている。
 楽師、吟遊詩人だろうか。
 オレはその手元に、目が釘付けになった。

(あ、あのギタープレイ・・・。只者じゃないな、手元が見えない)

 ダウンピッキングのみの超高速ギタープレイ。
 西方屈指の速弾きギタリスト、ゴー・イングマイウェイもかくやと思われる程だ。
 それを歌いながらやってのけている。
 男はワンコーラス歌い終えると、ポロロンと軽く弦を弾いた。

「・・・はい。今日はこれでお終いだよ」
「えぇ~!!」

 どうやらお開きらしいが、オレ達は聞き始めたばかり。
 まだまだ聞き足りない顔の子供と一緒に、アンコールを要求する。

「もう一曲だけ聞かせて」

 いいじゃんいいじゃんと大合唱。
 いつの間にか、若い女性がアンコールに加わっていた。
 男は困ったような表情だったが、諦めたのかギターの調律を始めた。
 その間に兵士が少し遠慮がちに、女性に話しかける。

「あの~。リザヴェーダ様?」
「あら。どちら様」

 女性は振り向いたが、タイミング悪く男の歌が始まってしまった。
 歌う男に向き直る女性。

「また後で聞くわね」
「は、はい・・・」

 兵士もそう答えたきり、押し黙る。
 名前の後に「様」付けで呼ぶ相手は目上、格上だ。
 緊急の用事でも無い限り、邪魔は出来ない。

 男は途中までいい調子で歌っているように見えたが、急に歌を中断してしまった。
 首を振ってギターをしまう様子から、何か納得出来なかったようだ。
 素人の耳では全くわからなかったのだが、どうやら今日はお開きらしい。
 女性が再びこちらに振り向き、兵士に声を掛けた。

「ええと、ところで門番さんは何の用事?」
「はっ!?」

 ぼんやりしていた門番が我に返ってオレ達を見る。
 釣られて女性もオレ達を見た。

「こんにちは」
「こんにちは」
「リューンから、貴女に届け物を託されまして」

 親父さんから預かったナイフを女性に見せる。
 女性は親父さんの事を思い出せないようだったが、ナイフの紋章が自分の物である事は確認した。
 これでどうにか、ミッション完了か。
 兵士がオレ達に声をかけてきた。

「あっ、それではわたしは職務に戻ります。アディオス!」
「グラシアス!」

 サリマンがノリよく親指を立て、去っていく兵士を見送る。
 何か思い出したようにそそくさと立ち去ったが、私用でもあるのだろうか。
 だが、オレ達は助かった。





 お招きに預かり、オレ達は女性の自宅へお邪魔する事に。
 先を歩く女性は何度も振り返り、物珍しさにキョロキョロするオレ達を見て微笑んでいる。
 家とは言っても建物は茨に覆われていて、森の中を歩いている気分だ。

 屋内は普通かと思いきや、さにあらず。
 植物と建物が一体化していると言えば近いだろうか。
 室内を貫く樫の木の下を抜けると、藤棚のテラスに出た。
 樫の木の枝の上では、リスが走り回っている。

「どうぞ。お茶でもお出ししましょう。
 流石の冒険者さんでもお昼からお酒は飲みませんよね?」
「明日の身も知れないのが冒険者ですから、酒は飲める時に飲みますよ。
 でも今は、お茶を頂けますか?」

 女性の冗談に、オレも冗談で切り返す。
 女性は笑顔で奥に姿を消した。

「このベンチ、フカフカですね」

 サリマンがそう言いながら、ベンチに腰掛けた。
 ベンチと言っても青草で作られたそれは、ソファーのような触り心地だ。
 家の中の植物全てが、その場所の建築材や家具に適した素材になっているのだろうか。

「はい。お待たせしました」
「お手伝いさせていただけますか?」

 女性がトレーを持って来たのを見て、ユルヴァが立ち上がった。
 茶菓子がテーブルに置かれ、並べられたカップがお茶でが満たされる。
 女性はお茶を注ぎ終えてポットを置くと、首を垂れて祈りを捧げた。

(ん?)

 女性の祈る姿に、オレは多少の違和感を覚えた。
 この地下城砦も聖北教会の勢力範囲のはずだが、その祈りとは違うようにも見える。
 聞いてみると、彼女はドルイドだった。

「みんな間違っているのだけれど、正確には『ドゥルイド』なのよ」
「は、はあ・・・」

 オレは苦笑しつつ答えたが、そこだけは譲れないのだとか。
 ドルイドは、その実体が明らかにされていない。
 呪術師、シャーマニズムにおける司祭などと同一視される事もあるらしい。
 特徴は森や木との強い結びつきだろうか。
 何にしろ本来、聖北教会がいい顔をしない存在のはずなのだが。
 当地の教会幹部は随分おおらかなようだ。

「さ、どうぞ」
「いただきます!」

 女性とユルヴァが祈りを終えるのを待ち、カップに手を伸ばす。
 紅茶は勿論の事、お茶請けのビスケットも絶品。
 宿へのお土産にしようと思ったのだが、店があるのは市民権が無いと入れないエリアだという。残念。

「・・・うん。
 それでホリィったら、いっつもおサイフを忘れて行っちゃうの。
 でね、たまにちゃんと持って行ったかと思うと、今度は買ったものお店に忘れてきちゃうのよね」
「あはは。うちの娘さんだってそうですよ。
 ほんとにドジですから」
「長ネギと玉ネギ間違えてましたしね」

 女性と話してみて、親父さんの事を覚えていただけでなく、共通の知人がいる事もわかった。
 歓談をサリマンとユルヴァに任せ、周囲を見回してみる。

 自然な光に、自然な動植物。
 現在、オレがいる場所を考えると明らかにおかしいのに、目に映るものには全く違和感がない
 小鳥や小動物も人を恐れる様子はなく、中にはテーブルの上に乗ってくるものさえいる。
 親父さんの知人でなければ、思い切り警戒してもいい場面だ。

(そもそも・・・あれ?)

「そういえばオレ達、名乗ったか?」
「あっ」

 今さらだが、いきなり馴染んですっかり忘れていた。
 兵士から名前だけ聞いていたのもあるか。
 女性が改めて「リザヴェーダ・フレイランド」と名乗り、オレ達もめいめいに自己紹介。
 ついでにもう一つ、大事な事を思い出す。

「あ、忘れてた!リーザさん!」
「はい」
「親父さんが『感謝の気持ちです』と言ってました」

 本当はナイフを渡す時に言うはずだったが、問題なかろう。
 リーザさんはそれを聞くと微笑んで、テーブルに乗っているナイフにそっと触れた。
 順番はちょっと違うものの、依頼完遂だ。

「さて・・・キリもいいし、そろそろ行こうか」
「そうですね」
「リーザさん、帰る前に町を見ていきたいんだけど、お勧めはありますか?」
「そうねえ・・・」

 リーザさんは、広場の反対側に小さな小屋がある事を教えてくれた。
 そこに住んでいるアスラと言う名の男が、剣術を教えていると言う。

「あの人は剣舞がとても上手だから一度見てみたらどうかしら?」
「じゃあ、オレはそこかな」

 剣術と聞いては行かないわけにいかないだろう。
 他には、「銀の鱗」という宿屋の女将さんが料理を教えているらしい。
 それにはユルヴァが食いついた。
 サリマンは町をふらついた後、宿で一杯引っ掛けるつもりのようだ。

「これから帰るんだから呑まれるなよ、サリマン」
「わかってますよ。程々に、ですね」

 苦笑するサリマン。
 ユルヴァが一緒ならば心配いらないか。
 オレ達はリーザさんに見送られ、植物園を後にした。
 すっかりご馳走になってしまった。

 帰り際、リーザさんから瓶詰めのジャムを頂いた。
 少し魔力が感じられるが、高い解毒効果があるらしい。
 ジャムとしても中々いけそうだし、保存も利くだろうから持ち歩きに便利だろう。





 後で宿屋に集合する事にして、広場で一旦解散。
 オレは一人で、植物園と反対側の小路に歩き出した。

 しばらく進むと、リーザさんに教えられた通りに小屋が現れた。
 小屋のそばに大柄な男がいる。
 薪を割っているようだ。
 男もオレに気付いたらしく、作業の手を止めてこちらを見た。

「道に迷ったのか?」
「いや、ここで剣術を教えてる人がいると聞いて来たんだ。
 貴方がアスラさんか?」
「そうだ」

 男は手にしている斧をクルリと回し、柄の刃寄りの部分に持ち直した。
 器用ではあるのだろうが、むしろ斧の扱いに慣れていると言った方が正確か。
 巨体との比較でわかりにくいが、手にしている斧も決して小さなものではない。
 相当の膂力の持ち主である事が窺える。

(遊びで振った斧でも、受ければ致命傷だな)

「ここで話すのも何だ。
 大したもてなしは出来んが、茶の一杯くらいは出そう」
「悪いな、突然押しかけて」

 アスラの後について小屋に入り、椅子に腰掛ける。
 想像はしていたものの、一つ一つの家具が大きい。
 オレも決して小柄ではないのだが、アスラとは体を構成するパーツの大きさが違いすぎる。
 本人が言うには、蛮族ではなく「もっと西」なのだとか。
 民族的な特徴なのかもしれない。

 大きなカップで出された茶を啜る。
 彼が教えているのは、剣技と斧技、それに咆哮と言う技らしい。
 リーザさんが斧と剣を間違えたのではなかったようだ。
 アスラを実際に見れば、誰だって斧を始めとする超重武器使いだと思うだろう。
 当の本人も、剣より斧の方が得意だと言っている。

「『咆哮』とは聞かない技だが、どういうものだ?」
「うむ。戦いの場をコントロールする技だ」

 咆えるというアクションにより、敵味方に様々な効果を与えるものと考えればいいだろうか。
 防御態勢から発動出来るのが大きなメリットだが、その性質上、発声出来ない状況では十分な効果が見込めない。
 技の難度も高く、オレが自在に扱う為にはもう少し実力をつけなければならない。
 剣技や斧技と組み合わせればワンランク上の戦闘能力を得られるだけに、習得する価値はありそうだ。

「剣術についてはどうかな」
「他の剣術と違うところは、一つ一つの技が補い合うように組み立てられていることだ」
「ん?」

 アスラの話は非常に興味深いものだった。
 そもそもオレは、辛うじて平均以上の筋力を備えている程度。
 大して器用なわけでもなく、身のこなしが軽いわけでもない。
 剣士としては、決して高い適性は無い。

 オレの剣の師匠とでも言うべき人は、「剣技は連動性と連続性だ」と教えてくれた。
 それを突き詰める事で、才能や実力で上回る相手にも勝機が生まれると。
 色々な事情で新たに習得する技を探していたが、求めていた要素は同じ。
 アスラの話は、師匠の理論に通じるものがある。

「この剣術はシステムだ。
 各々、他の剣術に勝るとも劣らないが、真価を引き出すには全てを極め尽くす必要がある。
 熟達してしまえば、他の剣術とは比べ物にならない価値がある。
 熟達出来れば、の話だが」
「なるほど」

 大剣技能の基本技として、必中の「閃」、実体の無い相手も斬れる「滅」、隙が大きいものの抜群の威力を持つ「圧」がある。
 さらに技の連携を助ける全体攻撃の「連」、戦闘の最中に己を見つめる事で精神を落ち着ける「静」もあって、この五種類を極めるだけでも達人級の技量が要求されるらしい。
 基本技の上にもそれぞれの系統に特化した技があるそうだから、上級技を加えた五種類を自在に操れるようになる頃には「英雄」と呼ばれているような気もする。

 習得したい気持ちはあるのだが。
 アスラが教える技は剣技といっても、大剣を用いる技能だった。
 何よりもまず、大きく重い剣を自在に取り回す筋力が要求される。
 オレの得物は長剣で、威力が足りない。
 技術の難度を考えても、今は手が出せない。
 確実に落ちる継戦能力を補えるだけの破壊力を出せるかも未知数だ。
 攻撃力も持久力も同時に落ちては話にならない。
 懐具合も考えなくてはいけないし。

「うーん・・・」
「焦る事はない。
 気が向いたら来ればいい」

 悩んでいるオレにアスラが言った。
 大剣をまるで片手剣のように扱う技、すぐに習得出来るとも思えない。
 アスラの言葉に甘えて、じっくり検討してから決めた方がよさそうだ。

「冷やかしになって悪いが、もう少し考えてみるよ」
「うむ、気にするな」

 受け答えの言葉は短いのだが、愛想は決して悪くない。
 アスラは「元」傭兵なのだという。
 どう見ても現役なのだが、それがどうして樵のような暮らしをしているのだろう。
 失礼かと思い、あまり突っ込んでは聞かなかった。





 宿屋「銀の鱗」に入ると、サリマンが女性にバシバシ肩を叩かれていた。
 粗相をして殴られているわけではないようだ。

「何やってんだ、サリマン」
「おお、地上人の仲間かい!」
「地上人??」

 女性は何か思い出したらしく、ゲラゲラ笑っている。
 話が全く見えないが、楽しそうで何よりだ。
 サリマンが絡んでいるのかと思いきや、女性に肩を組まれて困惑している様子。
 まあ、他人に迷惑をかけてないならいいだろう。

「ベルントだ。仲間が世話になってるな」
「私はメディナ。傭兵よ」

 がっちり握手を交わす。
 傭兵つながりで聞いてみると、アスラとは同僚だったという。
 近くで飲んでいる寡黙な男も傭兵らしい。
 町の中で傭兵を見る機会が多いのは、最近まで戦争をしていた名残りか。

「お待たせしました」

 料理教室に行っていたユルヴァが戻ってきた。
 出発前に買い物をしたいというので、一緒に宿を出る。

「買い物って?」
「食材を少々。帰りの野営は、期待してもらっていいですよ」

 それは頼もしい。










「ただいま~。親父さ―――」

 パァアアアアンッ!!

「スケベッ、変態!」
「!?」

 扉を開けた瞬間、中からスナップの効いた平手の音が聞こえてきた。
 怒りのオーラを背に纏ったイデアが、ノシノシと階段を上がっていくのが見える。
 カウンターの奥にいる親父さんが、入り口で硬直しているオレ達に声をかけてきた。

「おう、戻ったかベルント」
「ただいま・・・って、何だよ今のは」
「ああ、いつもの『挨拶』だ」

 親父さんは澄ました顔で、ホールの真ん中に倒れている男を指差した。
 その顔を見て納得。
 挨拶とはよく言ったものだ。
 そういえば、ユルヴァにも声をかけてたっけな。

「遠い所までご苦労だったな」
「道に迷って、大変でしたよ。
 お陰でおいしいキュウリを頂けましたけど」
「キュウリ?」

 親父さんはサリマンからキュウリを受け取り、不思議そうな顔をしている。
 説明すれば話が長くなるが、さすがに疲れた。

「オレは休ませてもらうわ。
 後、よろしく」

 オレは部屋に向かう階段を上り始めた。
 まだ話が呑み込めてないらしい親父さんの呟きが聞こえてくる。

「キュウリ?」

 説明は任せた、サリマン。










シナリオ名/作者(敬称略)
白亜の城/Jim
Vectorより入手
http://www.vector.co.jp/

(開始前に「受け継がれる力/アーティ」でスキル「賢者の瞳」購入、1400sp支払、「交易都市リューン/齋藤 洋」でスキル「眠りの雲」購入、600sp支払)
収入・入手
300sp、葡萄ジャム、クッキング(スキル)、はちみつ瓶×2、おさかな、マンドラゴラ

支出・使用
2000sp

キャラクター
(ベルントLv3)
スキル/掌破、鼓枹打ち、岩崩し、鼓舞
アイテム/賢者の杖、ロングソード、青汁3/3
ビースト/
バックパック/

(ユルヴァLv2)
スキル/祝福、癒身の法、亡者退散
アイテム/青汁3/3、襟巻き
ビースト/
バックパック/クッキング

(サリマンLv2)
スキル/魔法の鎧、賢者の瞳、眠りの雲
アイテム/破魔の首飾り
ビースト/
バックパック/

所持金
8713sp→5013sp

所持技能(荷物袋)
氷柱の槍、エフィヤージュ、撫でる、スノーマン、雪狐

所持品(荷物袋)
傷薬×4、はちみつ瓶5/5×2、万能薬×2、葡萄ジャム3/3、コカの葉×6、葡萄酒×3、鬼斬り、ジョカレ、聖水、うさぎゼリー、手作りチョコ、チョコ、うずまき飴、激昂茸、おさかな5/5、マンドラゴラ、ムナの実×3、識者の眼鏡3/3、術師の鍵4/4、バナナの皮、悪夢の書、松明2/5、ガラス瓶(ノミ入り)×2、遺品の指輪

召喚獣、付帯能力(荷物袋)
グロウLv7

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