Page39.「臭い仲」の冒険者達(豚の穴蔵)

「新しい依頼は、あらかた無くなってますね・・・」

 ユルヴァが掲示板を眺めながら言った。
 すでに昼過ぎとなれば、それも当然か。

「ツケを溜めてるご身分で昨日は大酒飲んだんだからな、そりゃ自業自得だよ」
「ツケはオレ達じゃない。その前に歓迎会が何日続いてると思ってるんだよ、いい加減止めろ責任者」

 嫌味を切り返され、親父さんが視線を逸らした。
 何かと言えば酒を飲む理由を探している宿の常連客や冒険者にとって、ミカエラとリムーのパーティ加入は渡りに舟。
 綺麗所を酒の肴に連日連夜騒いでいるのだから、朝起きて来いという方が無理だ。

 先日は、乗せられてエールを一気飲みしたリムーが酔っ払い、ちょっとした事件も発生。
 力自慢の冒険者達が興じていた腕相撲に乱入し、ケラケラと笑いながら相手を一回転させた。
 店内が騒然となったのは言うまでもない。

 見るからに普通の女性の体格なリムーに対し、相手は大男。
 対戦後の呆然とした様子から、手加減した訳ではないらしい。
 図らずもリムーに、相当な筋力が備わっているという事が判明した。
 後衛のルーンマスター系の適性だと思っていたら、前衛も張れる能力があったとは。
 ただ、もうしばらくは後衛に置いて見極めたい。
 回復役が二人というのも捨て難いし。

「割のいい仕事なんて、今日は最初から無かったよな・・・」
「・・・・」

 どこからか冒険者のため息が聞こえてきた。
 再び視線を逸らす親父さん。
 オレはユルヴァと一緒に、依頼書探しを続ける事にした。

「・・・街道開発局の人足って、リューン市内の罪人が放り込まれてるんじゃないのか」
「どうしてこんなものが・・・」
「見なかった事にしよう」
「ですね・・・」

 他には引越し手伝い、害獣駆除、パン工房短期勤務等々。
 何故か「瞬く星屑亭」のアルバイト募集も紛れ込んでいた。
 人手は足りてるように思えるのだが。

「これはどうです?」
「それは・・・」

 ユルヴァが指差す依頼書に目を向ける。
 オーク退治。未解決で貼っておいていい依頼でないのは確かだ。
 閉口する程の臭いで敬遠されたのだろうが、それを除けば適当な仕事と思える。
 言い換えれば、それほど嫌な臭いなわけだが。

「働ける時には働いておくか・・・ミカエラは――」
「もちろん、行くからね」
「え?不味くないか?」

 冒険者をしているとはいえ、ミカエラは間違う事なき貴族令嬢。それも次期当主だ。
 さすがにこの仕事、父親であるレンデル卿にバレたら面倒そうな気がする。
 何せ、オークに家宝の鎧を着られてしまったどこぞの貴族はすっかりリューンの有名人だ。全く嬉しくない方向の。
 とはいえ、ミカエラ本人にすれば父親を理由に持ち出されるのは不本意に違いない。
 結局、五人で行く事になった。

「親父さん、娘さん、ちょっと行ってくる」
「たかがオーク相手とはいえ、くれぐれも備えは十分にな」
「頑張ってね」
「帰ったら風呂の用意を頼むよ」

 親父さんは黙って頷いた。娘さんは忙しそうに動き回っている。
 オレ達は準備を済ますと、二人に見送られて宿を出た。





 オークが住み着いているという森までは、さほどの時間を要しなかった。
 早く片がつけば、夕暮れ前には帰れるかもしれない。
 サリマンは周囲を見回している。

「聞いたとおり、さほど大きな森ではないですね」
「ああ。だが、ここから本番だからな」

 仲間達が返事をする。
 ミカエラを先頭に隊列を組み、警戒しながら進んでいく。
 シーフであるミカエラは市街での行動には慣れているが、レンジャーやスカウトのいないパーティにあってはその役割も果たさなければならない。
 彼女の肩にかかる期待と責任は大きい。

 進みながら、特にリムーに戦闘時や敵に遭遇した際の基本的な行動などを教えておく。
 精霊としての実戦経験もあるだろうし、それほど心配はしてないが。
 先行しているミカエラが、地面から何かを拾い上げた。

「ベルント、これ」
「ぶっ、投げんな!」
「すごい、大道芸みたいです」

 何とか柄の部分をキャッチしながらユルヴァに抗議。オレは芸人じゃない。
 鎌が十分に使えそうなのを確かめ、荷物袋に押し込む。

「・・・・」

 先に進もうとした所、ミカエラが前方を見据えたまま、手でオレ達に注意を促した。
 オークが一体、見張りなのだろうか。

「・・・サリマン」
「了解」

 オークの見張りはあっけなく眠りに落ちた。
 無造作に近づき、仕留める。
 近くに他のオークはいないようだ。

 見張りを倒した以上、ゆっくりしている時間は無い。
 奇襲のメリットを最大限に生かさなくては。
 まずは根城を見つける必要がある。

 見張りのいた場所から少し進むと、妙な臭いがしてきた。
 周囲の茂みを拾った鎌で払い、小道を発見。
 臭いまでは隠せないものな。





 小道の先には現れたのは、洞窟。
 二体のオークが入り口に立っている。

「先程のようには行かないか・・・」

 二体のオークは、お互いの死角をカバーするような動きをしながら周囲を窺っている。
 眠りの雲を使うにも、微妙に距離が開いている。
 見張りとしては中々だが、何かに怯えているようにも見える。

「もしかして、気付かれてます?」
「何も見つからなかったけど・・・」

 サリマンの言葉を、自信無さ気に否定するミカエラ。
 ミカエラだけでなく、ここまで誰一人として異変を感じる事は無かった。
 見張りが二重にいる事を思えば、別なものに警戒している所へオレ達が来た可能性もあるか。
 無理に行きたくはないが、さて。

「・・・少し、待ってみよう」

 オークの注意力が長く持つとも考えにくい。
 それを言うなら、やはりオレ達の接近が気付かれてる可能性が少なくないのだが。
 予想通り、じきに見張りの一体が洞窟に入っていった。
 周囲に気配が無い事を確かめて、再びサリマンが詠唱を始める。
 声を出す間も与えず仕留めたのは、森にいたオークと全く同じだ。

「これな・・・撤退したら再挑戦したくなくなるから、一回で片付けるぞ」

 同じ気持ちなのか、仲間達も深く頷いた。
 この悪臭の中に身を置く時間も、出来れば短くしたい。
 一人なら突っ込んでる所だが、仲間の安全も考えればそう無茶は出来ない。

 気を失いそうな悪臭に耐えながら狭い洞窟を進む。
 周囲の壁に手を触れる気にもならない。
 一刻も早く討伐を完了し、この洞窟を出たいという焦りを懸命に抑え込む。

「・・・意味があったやら、無かったやら」

 思いがけず開けた場所に出た。
 壁には通路や部屋の入り口と思しき穴がいくつも開いている。
 さしずめ、ロビーといった所か。
 そして律儀に、出迎えのオークが数体。
 オレは剣を抜いた。

「終わるまで休めないぞ、腹括れよ」

 挟み撃ちを避ける為に壁を背に、オークの一団と対峙する。
 そのうちの一体が洞窟に響き渡る大声で叫びながら襲い掛かってきた。
 後に引けなくなったが、望むところだ。

 サリマンの眠りの雲で、まずは敵の手数減らす事に成功。
 武装したオークの増援の中にオークロードを見つけ、攻撃を集中させる。
 大勢を一度に行動不能にさせる魔法は、味方が使えばこれほど心強いものはない。

 絶叫と共にオークロードが倒れると戦闘の趨勢も決まった。
 ロビーの敵を片付け終えた勢いで、掃討戦に移行。
 箱に入った小銭やら、指輪やらを入手。多少は報酬の足しになるだろうか。
 本棚に入っていた「トラップコレクション」を見つける。

「マニアックね・・・あっ!」
「どうした?」

 ミカエラが本を開いて声を上げた。
 付箋のついたページに記されていたのは、フィールドトラップ。
 敵の接近を報せる類のものだ。
 発見されにくい細工も書かれている。

「なるほど・・・」
「やっぱり、罠にかかってたんだ・・・」

 落ち込むミカエラを皆で慰めた。
 正直、森の中全部を最大警戒度で進むのは無理だ。
 最初の見張りがいた所からでも同じ。
 技能など使いながら行けば、洞窟に入ってからどうにもならなくなる。

 気を取り直して掃討戦を再開。
 一際酷い悪臭が立ち込める場所でもオークを一体仕留める。
 そこはオーク共のトイレだったらしく、鼻を押さえながら早足で離脱した。

 洞窟の入り口手前まで戻り、ロビーと反対側の分岐に進む。
 こちらも開けた場所に出たが、オークの一団と遭遇。
 だが少し様子が変だ。

「どうやら逃げ支度の最中だったようですね・・・」

 恐らく、ユルヴァの言う通りだろう。
 逃げ場の無くなったオークは覚悟を決めたのか、荷物を放り投げて向かってくる。
 しかしオークロードがいなければ烏合の衆、いや豚合の衆だ。
 最後に残ったオークが倒れると、洞窟内は静まり返った。

「これが最後だったみたいだな」

 念の為に奥まで調べて隠し部屋を発見したが、これといった物は見つからなかった。
 オレ達は顔を見合わせると、我先に洞窟を飛び出して、休息もそこそこに宿目指して出発。
 早い所、綺麗な身体になりたい。

「・・・・」

 リムーが恐ろしく口数が少ない。
 最初からあまり喋らなかったが、洞窟はかなり堪えたようだ。
 ちょっとかわいそうだったかな。

「ねえ、ベルント」
「ん?」
「こういうの、『臭い仲』って言うんですかね」
「ははっ」

 ユルヴァの言葉に思わず吹き出した。
 用法は違うが気の利いた事を言う。
 そろそろ、考えなきゃならない事もあるんだけどな。





 すれ違う人々の視線に気付かない風を装って通りを急ぎ、宿の扉を開けた。
 中に入って深呼吸。

「ただいま、親父さん」
「・・・おう、上手くやったようだな。村から報奨金と感謝状が届いてるぞ」

 親父さんがカウンターに皮袋と筒のような物を置いた。
 真っ直ぐ戻ってきたつもりが、村の使いのほうが早かったらしい。

「・・・ま、とりあえず乾杯しますか」
「ちょ、ちょっと待てお前ら、その格好で飲まれた日にゃ商売上がったりだ!
 鼻がバカになってて自分じゃ気づかなかろうが酷い臭いだぞ。とっとと風呂に入ってこい!」

 酷い臭いだったのに、すっかり気にならなくなっていた。
 感謝状は宿のどこかにでも飾ってもらおう。
 報酬の袋だけ受け取って階段に差し掛かると、丁度娘さんが下りてくる所だった。

「あっ、ベルント。おかえりなさい」
「・・・全力で壁際に避けるの、やめてくれる?」
「ごめん、つい・・・」

 若い女性にあからさまに避けられると、結構傷つくものだな。










シナリオ名/作者(敬称略)
豚の穴蔵/主計
groupASK official fansiteより入手
http://cardwirth.net/

出典シナリオ/作者(敬称略)
レンデル卿「Link」/レカン
家宝の鎧「家宝の鎧」/齋藤 洋

収入・入手
700sp、鎌、リング(終了後売却100sp)

支出・使用


キャラクター
(ベルントLv3)
スキル/掌破、鼓枹打ち、岩崩し、鼓舞
アイテム/ロングソード
ビースト/
バックパック/

(ユルヴァLv3)
スキル/クッキング、祝福、癒身の法、亡者退散
アイテム/青汁3/3、襟巻き
ビースト/
バックパック/砂漠の涙

(サリマンLv3)
スキル/魔法の鍵、魔法の鎧、眠りの雲、賢者の瞳
アイテム/賢者の杖、破魔の首飾り
ビースト/
バックパック/青汁3/3

(ミカエラLv3)
スキル/連脚、掃腿、盗賊の手、盗賊の眼
アイテム/ネックレス
ビースト/
バックパック/

(リムーLv1→Lv2)
スキル/ペンギン変化、スノーマン、雪狐
アイテム/
ビースト/氷の鎧
バックパック/氷柱の槍

所持金
6163sp→6963sp

所持技能(荷物袋)
エフィヤージュ、撫でる、投銭の一閃

所持品(荷物袋)
青汁3/3×3、ジルの酒3/3、黄楊膏3/3、傷薬×4、緑ハーブ2/2×4、はちみつ瓶5/5×2、万能薬×2、葡萄ジャム3/3、百葉丸5/5、コカの葉×6、青ハーブ2/2×2、葡萄酒×5、鬼斬り、ジョカレ、聖水、手作りチョコ、チョコ、激昂茸、おさかな5/5、マンドラゴラ、肉!2/2、ムナの実×3、識者の眼鏡3/3、術師の鍵4/4、バナナの皮、悪夢の書、光弾の書×2、火晶石、冷氷水×2、松明1/5、鎌、石蛙、ガラス瓶(ノミ入り)×2、遺品の指輪、冒険者の日記

召喚獣、付帯能力(荷物袋)
グロウLv7

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