Page45.歴史の闇から延びる階段(教会地下の探索)

「ベルント、こんなのどうです?」
「ん?どんなのだよ」

リムーとユルヴァが掲示板の前で手招きをしている。
実は今日、あまり働く気分ではないのだが。
椅子と一体になったように重い腰を無理やり持ち上げ、立ち上がる。
二人が見ていたのは、まだ新しい依頼書だ。

「ええと、教会の中で見つかった地下室の調査?報酬は銀貨400枚、危険手当もあるのか」
「悪くないと思うんだけど」
「そうか・・・」

判断は詳細を聞いてからにしよう。
依頼書の「トイン村」は、リューンから徒歩で一日ほどの場所にある。
リューンの周辺に点在している村々の一つだ。

「教会の地下室」という言葉に、ちょっと引っかかる。
聖北教会も、歴史書に書かれていない所で結構エグい事をしている。
あまり楽観して臨むと、大変な目に遭うかもしれない。

「お仕事するの?」
「ん・・・そうだな」

依頼書を手にしたオレに、ロリが近寄ってきた。
教会の助祭様からの依頼とあって、信者のユルヴァが乗り気の様子。
サリマンもある程度の知識を持っているし、リューンからそう離れていないのもいい。
オレはカウンターでグラスを拭いている親父さんに、依頼書を見せた。

「親父さん、これ行けるかい?」
「ふむ。お前達なら問題は無いだろうが、くれぐれも慎重にな」
「ああ」

サリマンは部屋にいるはず。
ミカエラは向かいの雑貨屋か。
オレはユルヴァに声をかけた。

「二人を呼んできてくれ」










「この度は、このような場所までご足労頂き、ありがとうございます」

目の前の若い女性は、椅子に腰掛けたまま深々と頭を下げた。
オレ達もそれぞれに一礼する。
彼女はラナ・アロー。このトイン村の聖北教会の助祭らしいが、女性の聖職者とは珍しい。

「お仕事の内容はおおよそ張り紙に書いてある通りですが、念のため確認しておきますね」
「ええ、よろしくお願いします」

交渉や折衝はサリマンに一任。
聖北関連の知識が必要になったとしても、相手は本職だ。
それにオレ達の受けた依頼は調査。それに発生すれば戦闘。
口を挟む事も無いだろう。

「―――ト。ベルント、聞いてた?」
「う。すまん」
「しっかりしてよ」

ぼんやりしていたらミカエラに突っ込まれた。
サリマンが確認も兼ねて、再度概要を話す。

アロー助祭がトイン村に赴任してきたのは一週間ほど前。
物置の整理中、地下へ続く階段を見つけたのだが、助祭はもちろん、村人もその存在を知らなかった。
階段は一見しただけではわからない場所にあり、不用意に手を出すのも躊躇われて依頼を出す事にしたらしい。

賢明とも慎重とも言えるが、全く手付かずな状態からの調査。
階段を下りてみたら埃だらけの地下室が一つ、という事もあり得る。その場合も基本報酬は出るらしい。
サリマンが同意を求めるようにオレを見た。いいんじゃないかな、と軽く頷く。

「わかりました、その条件で結構です」
「ありがとうございます。・・・では、早速ご案内しますね。こちらへどうぞ」

助祭の案内で物置に向かう。
書物や道具で雑然としている中、彼女が指し示した場所には確かに下り階段が口を開けている。
ミカエラが暗い階段の先を覗き込む。

「この上に本棚が乗ってたら、簡単には気付かないわね」
「ええ。・・・それでは行きましょう。皆さん、準備はよろしいですか?」

オレ達が頷くと、助祭は火を点けたランタンを階段に向けた。





慎重に階段を下ると、北に伸びる通路に出た。
階段も通路も、明らかに人工のものだ。
ミカエラが周囲を調べる。

「酷くかび臭い・・・長い間、人が来た形跡は無いわね」

助祭の前任者も知らなかったのだろうか。
それとも、触れるべきでない何かがあるのだろうか。
少し進むと通路は突き当たり、道が左右に分岐していた。
突き当りにある扉に、ミカエラが取り付く。

「鍵がかかってる。罠は見当たらないけど、鍵穴が見当たらない」
「その二つの窪みに、何かをはめればいいの?」
「だと思う」

手持ちの銀貨を合わせてみたが、大きさが違っていた。
通路の分岐があるのなら、そちらを先に調べてもいいだろう。
まずは東から調査する事に。

その東もすぐに突き当たり。正面に扉が現れた。
人の気配は感じられない。
かかっていた鍵をミカエラが解除し、慎重に中に入る。

「家具がありますね。人がいたんでしょうか」
「やっぱり、かなり前だと思う。誰かが入った形跡は無いもの」

この部屋なら休憩も出来そうだが、まだ必要ない。
ソファには埃が積もっていて座る気になれない。
うっかり払えば、部屋が大惨事になりそうだ。

「あっ、机の上に何かありますよ?」

助祭が見つけたのは、金色に輝く小さなコイン。
見た事の無い意匠のものだが、一応持っていこう。
さっきの扉に合うかもしれない。

「昔ここにいたどなたかの忘れ物でしょうか。・・・キャッ!!」

机の陰から飛び出した鼠を見て、助祭が悲鳴を上げた。
遅れを取るわけもなく、すぐに追い散らす。
ユルヴァが助祭を気遣い、声をかける。

「大丈夫ですか?」
「お、驚いた・・・」
「この地下、構造は単純なようですね。反対側も見ましょう」

サリマンの提案に同意し、オレ達は西へ移動。
東西は対称の作りになっているようだ。
西の扉には毒針が飛び出す罠が仕掛けられていたが、ミカエラが身体を張って解除した。
ロリが解毒して事無きを得る。

「ミカエラ・・・」
「ちょ、ちょっと失敗しただけよ!」

扉の先は、宝箱が一つだけの殺風景な部屋。
罠も鍵も無い箱の中に、解毒剤と銀色のコインが入っていた。
毒針の罠の先に解毒剤とは。

他には何も無さそうだ。
オレが周囲を見回している間にウィスプが出現したようだが、ユルヴァと助祭の「ツイン亡者退散」で一瞬にして昇天させられた。

まだ開いていない扉の前に戻り、見つけた二枚のコインを窪みにはめてみる。
ピッタリだ。何かが外れるような音が聞こえた。
扉を開けると、その先は小さな部屋になっていて、奥に下り階段が見える。
疑問を口にしてみる。

「しかし、隠し階段に罠に念入りな鍵だろ。部外者が歓迎されてるとは思えないな」
「同感ですね。悪質ではなくても、立ち入って欲しくない意志が感じられます」

サリマンが同意を示す。
招かれざる来訪者を、余程警戒していたのか。
聖北教会の地下に、人に来られて困る場所。いい予感はしない。

階段を下りきると、大きな両開きの扉が現れた。
鬼が出るか蛇が出るか。ミカエラが言う。

「鍵も罠も無い、でも・・・」
「・・・何か気になる事が?」

助祭が不安そうな顔をしている。
他とは作りの違う扉を見れば、無理も無い。

「ただの勘なんだけど、嫌な感じがする。覚悟したほうがいいかも」
「だな。オレが開ける」
「お願い」

オレは前に出て、仲間達の顔を見ると扉に手をかけた。
しばらく開閉が無かったような重い音を立て、扉が開き始める。
その先には、想像とは違っていたが驚かずにはいられない光景があった。





「これは・・・、物凄い量の本ですね」

呟くユルヴァ。どうやら書庫のようだ。
ミカエラが調べて回ったものの、仕掛けや隠し通路のようなものは見当たらない。
最深部と考えていいだろう。
本棚に並んだ背表紙を眺めているリムーが、助祭とユルヴァに声をかける。

「何の本か、わかる?」
「・・・結構、凄い物かもしれません」

答えたのは二人でなく、サリマン。
いつになく真剣な表情。眉間の皺がさらに深くなっている。
ここにあるのは異教の魔術書や聖典といった、いわゆる「禁書」の類。
聖北教会は布教や改宗を進める際、その手の書物は焼き捨ててきたから、まとまって残っているのは珍しいらしい。
所蔵しているのが見つかれば異端認定を受けて処罰は免れないだろうが、今回は事情が違う。

「隠していたわけではありませんし・・・」
「キャ――――ッ!!」

少し離れて本棚を眺めていた依頼人が、突然悲鳴をあげた。
急いで駆け寄ると、助祭が床に座り込んでいる。
その前に落ちている一冊の本から、何かが飛び出した。

「リムー、助祭を端に連れていってくれ」
「わかった」

本から飛び出した「それら」はオレ達に襲い掛かってきた。
霊体のようにも見えるが、三体いてそれぞれ色が違う。

「赤、青、白・・・」
「リムー、赤いのだ!」
「わかった」

情報が無い以上、思いつく戦術で当たるしかない。
白は不明だが、赤は冷気に弱く青は熱に弱いと、誰でも思うだろう。
だが、赤より先に白の弱点が判明。ユルヴァの祈りで消滅した。

「消えた!?」
「一応、祈ってみたんですが・・・」
「白は霊体か何かだったのか?」
「考えるのは後にして!」

叫びながらミカエラが放った蹴りはかわされた。
第二波、リムーの指先から伸びる氷の槍が赤い魔物を捉える。
効いてるようだ。続けてオレの剣がヒットし、魔物は霧散した。

最後に残った青い魔物が氷片を飛ばして激しく抵抗する。
見かけによらずタフで少々時間を取られたものの、最後にロリの「スティング」が命中してどうにか勝利。
助祭がオレ達に頭を下げた。

「・・・申し訳ありません。あの本を開いたら、急に変な化物が出てきて・・・」
「気にしないで下さい、これが私達の仕事です。・・・でも、何だったんでしょう、あれは?」
「あれは、ミミックの一種。物に潜んだり化けたりして、油断した人間を襲う魔物」

リムーがユルヴァに答える。
トラップに使われる事もあるようだが、この場合はどうなんだろう。
とりあえず、探索出来る場所は全て調べたように思える。

「ここが最深部のようだし、とりあえず地上に戻らないか?」
「そうですね、戻りましょう」

オレの提案に助祭が同意したところで、探索は終了。
このまま一冊ずつ本を開いていったら、デーモントラップでも引き当てそうな気がしてたんだよな。
正直、ホッとした。





助祭の部屋に戻り、報酬を受け取る。何と、銀貨1000枚。
危険手当の方が多かったが、依頼人の感謝込みという事で、ありがたく頂戴した。

「それで、本はどうするつもりかな?」

念の為に聞いておく。
この助祭が妙な事を考えると思っているわけじゃない。

「・・・あの本、異教の聖典や魔術書なんですよね?私じゃどうしようもなさそうなので・・・神学校時代の恩師を訪ねて、相談してみる事にします。信用出来る人ですから、安心していいですよ」
「そうか。あの手の品は、扱いを間違えると貴女自身が災いに巻き込まれかねないから、とにかくオープンにして、処理を丸投げして深入りしない方がいいと思う」
「わかりました」
「村に赴任して教会の中を整理していたら変なものを見つけた、わけがわからないのでお願いします、とでも言えばいいさ」

長く保持したり、調べたりすれば教会組織の中に勘ぐる連中が出てきかねない。
助祭は慎重そうな人物ではあるが、念を押しておく。
オレ達が見つけたのは、それだけ危険な代物だという事だ。
依頼の首尾を確認し終え、サリマンが顔を上げた。

「さて、それじゃ『瞬く星屑亭』に帰りましょうか」
「はい、さようなら。次もまた機会があればよろしくお願いしますね」

オレ達は助祭に見送られ、トイン村の教会を後にした。










「おかしな事にならなきゃいいがな」
「あの本の事~?」
「ああ」

帰り際、オレはポツリと呟いた。ロリがオレの顔を覗き込む。
敬虔な聖北信者のユルヴァを前に言い辛い事だが、聖北教会が布教や改宗を進める過程で「教化」と称して異教徒の民に過酷な仕打ちをしたケースがあったのは歴史的事実だ。
もちろん全てではないだろうが、大きな恨みを買う事もあったのは想像に難くない。

トイン村の祖先は、表向きは聖北教会に従ったと見せかけて教会施設を建てたが、その地下では伝来の神や精霊を祭り続けていたのかもしれない。
代々の聖職者の中に異端の者がいた可能性もあるが。
最初に依頼の話を聞いた時は、異教の民を監禁、拷問する施設を想像していたのだが、それは違っていたらしい。
何にしても、宗教なんて綺麗事じゃ済まないのだが。

そして今回の依頼では、オレ自身にもパーティにとっても大きな問題が露呈してしまった。
オレの剣やミカエラの蹴りが効かない相手だと、戦力が大きくダウンする。
たまたまロリがスティングを持っていなかったら、少し危なかったかもしれない。
幸い、懐にも余裕がある事だし、早急に解決しなければ。










シナリオ名/作者(敬称略)
教会地下の探索/呪文
groupASK official fansiteより入手
http://cardwirth.net/

収入・入手
1000sp、解毒剤、黄金のコイン、白銀のコイン

支出・使用


削除
黄金のコイン、白銀のコイン

キャラクター
(ベルントLv3)
スキル/掌破、鼓枹打ち、岩崩し、鼓舞
アイテム/ロングソード、黄金のコイン、白銀のコイン
ビースト/
バックパック/

(ユルヴァLv3)
スキル/クッキング、祝福、癒身の法、亡者退散
アイテム/青汁3/3、襟巻き、百葉丸5/5
ビースト/
バックパック/砂漠の涙、慎ましき祈り

(サリマンLv3)
スキル/魔法の鍵、魔法の鎧、眠りの雲、賢者の瞳
アイテム/賢者の杖、破魔の首飾り
ビースト/
バックパック/青汁3/3

(ミカエラLv3)
スキル/連脚、掃腿、盗賊の手、盗賊の眼
アイテム/ネックレス
ビースト/
バックパック/

(リムーLv3)
スキル/ペンギン変化、スノーマン、雪狐、氷柱の槍
アイテム/墓守の杖
ビースト/氷の鎧
バックパック/

(フロリアLv1→Lv2)
スキル/牡丹の姫、雪待草の姫、白百合の姫
アイテム/スティング、青汁3/3
ビースト/
バックパック/

所持金
8972sp→9972sp

所持技能(荷物袋)
エフィヤージュ、撫でる、投銭の一閃

所持品(荷物袋)
青汁3/3×2、ジルの酒3/3、黄楊膏3/3、傷薬×5、緑ハーブ2/2×4、はちみつ瓶5/5×2、万能薬×2、解毒剤、葡萄ジャム3/3、薬草3/3×3、コカの葉×8、青ハーブ2/2×2、葡萄酒×5、鬼斬り、ジョカレ、聖水、手作りチョコ、チョコ、激昂茸、おさかな5/5、マンドラゴラ、肉!2/2、塩3/5、塩5/5×2、ムナの実×3、識者の眼鏡1/3、術師の鍵4/4、悪夢の書、光弾の書×2、火晶石×3、太陽石3/3、冷氷水×2、クリスタル、つるはし15/15、鎌、石蛙、ガラス瓶(ノミ入り)×2、遺品の指輪、笛、冒険者の日記、感状

召喚獣、付帯能力(荷物袋)
グロウLv7

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