Page15.歌い誘う、鋼の魂(古城の老兵)

「ロシ、ここでいいよ」

 相棒の背から降りたオレの前に、小さな古城が建っている。
 月明かりに照らされたそれは、廃墟と言われても不思議でない程に傷み、荒れ果てていた。
 オレ達は、ランタンの灯を頼りに薄暗い城内へ足を進めた。

「・・・」

 程なく、ランタンの明かりの中にローブを纏った老人の姿が浮かび上がった。
 人の気配を感じていなかったのだろうか、ロシが驚いて後ずさる。
 相棒を宥めながら、オレは老人に声をかけた。

「やあ。今日の作業は終わりか?」
「・・・なんとは無しに、今日来るのではないかと思っておったよ」





 オレはこの老人を知っている。
 先日、依頼の帰りに雷雨に見舞われた時、偶然見つけて軒を借りたのがこの古城。
 中で出くわした老人に、オレは夜盗の一団と間違われた。幸い、疑いはすぐに解けたのだが。
 老人はおよそ四十年ほどもこの場所で野ざらしになった亡骸の埋葬を続けているという。
 「自らの仕事、そして為すべき責務」と言って。
 老人は自らを、「グロア」と名乗った。

 リューンからそれほど離れていないにも関わらず、このような場所が一般には知られずに存在している。
 主要街道から外れている事もあろうが、何か理由があるはずだ。

 老人は「この国の民全てが根絶やしにされた」と言っていた。
 となると、自然に考えれば聖北教会の「闇」である布教、改宗、教化・・・その過程で起きた数多の悲劇の一つかもしれない。
 そもそも「根絶やし」などという蛮行、信仰で正当化させなくてはそう出来るものじゃない。

 何があったのかは何となくわかった気になったが、それの後始末を老人が独りで行っているというのはわからないままだ。
 話し方からして、地元の者とも思えない。
 結局、いくら考えてもわからずにその日は休み、そのままになった。
 知らなくてもいい事ではあったしな。





「して、今日は技を習得しに来たのか?」
「いや・・・それもあるが、先日の帰りがけに歌が聞こえたんだ」
「歌、だと・・・?」

 オレが老人の背後の壁を指差すと、老人も振り向いた。
 そこにあるのは長さも幅も、形状もまちまちな無数の剣。
 老人に断りを入れ、オレは迷う事なく、多くの剣の中の一振りに手を伸ばす。
 一見、何の変哲も無い長剣だ。魔力も無いだろう。

「・・・その剣が歌っていたというのか?」
「ああ、確かにこいつだ」

 オレは長剣を鞘から引き抜き、連続した型を披露した。
 老人が低く唸る。

「いい剣だ。手に馴染む」
「なるほど。だがそれは、特別な力のある剣ではないぞ?」
「そうだな」

 先日、この剣が目に映った時、何か呼ばれているような気がした。
 雨宿りだけに一度訪れただけの場所になるか、と思っていたのだが。
 「技を習得したければ後日来るがいい」という老人の言葉に従い、今日はロシと共にやって来た。

 剣を鞘に収めてから、腰に当ててみる。
 使い込まれたもののようで、しっかりと手入れされていた様子が窺える。
 オレはもう一度剣を抜き、気合と共に虚空へ突き入れた。

「おぬし、騎士か」
「・・・元、な」
「野暮であったか、許せ」
「いいさ。誰も聞いてない」

 外界と関わりを持たない老人がオレの素性を知った所で、どうという事も無いだろう。
 見る者が見れば、系統立てた剣術の型である事はわかる。
 独学で覚えたり、戦場で盗める類のものでない事も。
 教わったのだと思えば推測も出来る。

 オレは手拭いを取り出し、剣の刃を軽く拭った。
 剣が歌っている。直接オレの血に、魂に訴えてくる。
 それは斬る事に喜びを覚える者には、決して聞こえる事が無い歌だ。

 こんなものがここで出てくるなんて。
 見てしまった以上は素通りも出来ない。

「こいつを、もらえるかな」
「ふむ。説明はいらんな?」
「ああ」

 グロアに銀貨を手渡した。
 命を預けるに足る相棒だ。いい買い物だと思う。





 オレは剣を手に入れたついでに、グロアに技の説明を求めた。
 グロアが教える剣技は対人寄りの傾向が強いようだ。

 気になったのは「影走り」。
 確実に敵を捉えるだけでなく、刹那の回避力も飛躍的に高める強力な技。
 多数の敵を相手取った時や格上の敵と戦う時に真価を発揮するだろう。

「今のオレには、少し家賃が高いかもしれないな」
「何、戦いの中で成長し、習熟するものだ。
 だが、習得する技のバランスは考えた方がよいだろう」

 グロアのアドバイスに従い、今回は習得を見送った。
 現在オレが習得しているのは、敵の動きを止める「鼓枹打ち」と防御力を向上させる「魔法の鎧」、それに非実体の敵にもダメージを与えられる「掌破」。
 必中にして発動時の回避力が飛躍的に上がる「影走り」に魅力はあるが、順番とすれば複数の敵に効果のある技が先か。
 技の難度が高いという事は、どれだけ強力であっても使い所が著しく制限されるという事でもある。
 もう少し探してから決めた方がいいだろう。

 オレはロシの背に跨り、古城を後にした。
 場所は知っているのだし、来る機会はいくらでも作れる。





「・・・・」

 月明かりの中、オレもロシも無言でリューンへ向かっている。
 休み休みの移動でも明日、明るいうちに到着できるだろう。

 腰に提げているのは手に入れたばかりの長剣。
 長年使っていたものではないが、新品とは違う安心感がある。

 故郷を出る時、剣は置いてきた。
 オレがリューンで暮らす中で一番気をつけなければならないのは、誰かに素性を知られてしまう事だ。
 故郷は遠くにあるとはいえ、グロアのように型を見ただけで言い当てる者もいる。
 騎士の剣技には特徴があり、知っている者が見れば、どこの騎士であるかもわかってしまう。
 リューンのような大きな町で、万が一が無いとは言い切れない。

(だが・・・)

 隠れる事ばかり考えているうち、いつの間にか大事なものも失いかけていたようだ。
 どこにいても、何をしても、オレはオレ。積み重ねて来たものの上に立っている。
 それまでと全く違う事をするとしても。

 日々の暮らしに追われていたオレを、一振りの剣が呼び戻してくれた。
 その、声にならない歌声で。

「鋼の歌姫、いや、『歌う剣』・・・悪くないかな。それでいいか?」

 腰の剣に手を当てる。
 オレにしては悪くないネーミングだと思うが、どんなものかな。
 自分が言われたと思ったのか、ロシが歩きながら振り返った。

「??」
「すまん、独り言だ。ああ、水辺を見つけたら少し休もう」

 ロシは返事代わりに鼻を鳴らし、前を向いた。
 今夜は久しぶりに、型の稽古でもしようか。
 剣の歌を聴きながら、一心不乱に汗を流す。
 月とロシに見守られてする稽古なんて、何年ぶりだろう。

 たった一振りの剣との出会いで、漠然とした不安が吹き飛んだ。










シナリオ名/作者(敬称略)
古城の老兵/SIG
groupASK official fansiteより入手
http://cardwirth.net/

収入・入手
ロングソード

支出・使用
500sp

キャラクター
(ベルントLv2→Lv3)
スキル/掌破、魔法の鎧、鼓枹打ち
アイテム/賢者の杖、青汁3/3、ロングソード
ビースト/
バックパック/

所持金
5070sp→4570sp

所持技能(荷物袋)
氷柱の槍

所持品(荷物袋)
傷薬×4、青汁3/3×2、万能薬×2、コカの葉×6、葡萄酒×2、イル・マーレ、聖水、うさぎゼリー、うずまき飴、激昂茸、ムナの実×3、ガラス瓶(ノミ入り)×2、破魔の首飾り、魚人語辞書

召喚獣、付帯能力(荷物袋)
グロウLv3

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