ポタリ。
汗がまた一滴、地面に落ちた。
今日は決して暑い日ではない。
だが、極度の緊張感で噴き出す汗を抑える事が出来ない。
路地の角に身を寄せ、先の様子を窺う。
隠れた位置の関係ではっきり確認できないが、間違いなく何かがいる。
数は一体。情報通りだ。
相手に気付かれぬように呼吸を整えると、オレは一気に路地に飛び出した。
警告を発しながら腰の剣を引き抜き、構える。
「動くな―――ってえっ!?」
「なあに?」
そこにいたのは、一人の少女。
手に花束を抱えている所を見ると、花売りをしているのだろうか。
その花を使って自分で作ったのか、頭には花冠を載せている。
目立つのは特徴的な耳の形。
長く、先の尖ったそれが、少女がエルフである事を示していた。
「オレはこの辺りに妖魔がいると報せを受けて来たんだが・・・」
「そうなの?でも、ここには私しかいないよ?」
「確かにあの男が言ってたんだがなあ・・・」
「・・・あ」
オレの「あの男」という言葉を聞き、考え込んでいた少女が口を開いた。
何か思い当たる事があったらしい。
「知ってる事があったら、教えてくれないか」
「うん。少し前ね、酔っ払ったおじさんが来たの。すごくしつこくて。
腕を掴んで放してくれなくって、仕方ないから花の力を借りて驚かしたの。
そしたらその人、逃げちゃったんだけど」
「あのジジイ・・・」
オレは通報者の顔を思い出し、舌打ちした。
確かに、息が酒臭かった。
今日、昼も日中の「瞬く星屑亭」に中年の男が転がり込んできた。
酷く混乱した様子の男を宥めて話を聞くと、リューンの裏路地に女の妖魔が現れ、襲われたという。
よくも妖魔に襲われて無事に逃げ延びたものだと感心しつつ、正確な場所を聞いてオレが急行する事に。
生憎、店内にほとんど冒険者がおらず、駆け出し連中は治安隊に連絡する準備をさせて待機。
半分真偽を疑いながら、万が一を考えて真剣に対応してみたらこの結果。
オレはため息をつき、剣を鞘に収めた。
急いで治安隊に通報していたら、オレ達まで大目玉を食らっていた所だ。
「すまんな、驚かせて。オレは冒険者のベルントだ」
「ううん。私、フロリアっていうの」
「エロリア?」
「フロリアだよ~!」
そんなハートウォーミングなやり取りも織り交ぜつつ。
いかに「交易都市リューン」といえど、街中でエルフを見かける事は滅多に無い。
エルフである以上、人間の風貌と年齢の感覚は当てはまらないのだが、フロリアは十代前半のように見える。
いずれにせよ、とびきり変わった少女である事は間違いないようだ。
身の上を聞いてみると、口を開く度に内容が違っている。
曰く、エルフの国のお姫様で、魔女に姿を変えられた想い人を追ってここまで来た。
曰く、ここで生まれ育ち、なんとなくここにいる。
曰く、木の葉通りの名家の令嬢に似ていて、記憶には無いが何か関わりがあったかもしれない。
曰く、喧嘩別れした想い人を探していたが、路銀が尽きてここにいる。
一言で、虚言癖とか妄想癖と片付けてしまうのは簡単なのだが。
花が好きで、ロマンチストで、かなりマイペースである部分は共通している。
オレ自身はあまり纏わりつかれたくないが、ユルヴァ辺りは仲良くなれそうだ。
「そういえば先程、『花の力を借りた』と言ってたが。差し支えなければ聞いていいかな?」
「あ、うん。ええとね・・・」
どうやらフロリア自身もはっきりとわかっているわけではないらしい。
たどたどしい説明をまとめると、花言葉に秘められた呪術的な力や、花そのものの力を行使する技のようだ。
少なくとも、オレはそういう術の存在を知らなかった。
人通りの少ない裏路地で商売をしていた割に、フロリアは人懐こく、喋り続けた。
珍しい花の事。美しいバラ園の噂。花から作られる香水やブーケの話、等々。
もしかしたら、嫌な事があって裏路地に引っ込んだのかもしれない。
「・・・・」
「どうした?」
しばらくして、急にフロリアが黙り込んだ。
少し躊躇する様子を見せたが、突然、改まった口調で話を切り出した。
「・・・ちょっとね、お願いがあるんだけど・・・聞いてくれる?」
「お願い?・・・出来るかどうかわからんが」
「お願い」が何なのか想像もつかないが、聞いてみなければ返答しかねる。
躊躇して、それでも言うからにはまじめな「お願い」なのだろうし。
「お願いって言うのは・・・わたし、旅の拠点を探しているの。
もっと色んな花が見たいし、もっと色んな人が見たいし、・・・探しているものが、あるから」
「・・・ふむ」
「もしよかったら、冒険者の宿を紹介とか・・・してくれないかな?」
「・・・・」
そう来たか。紹介する事は出来る。
出来るが、この少女が冒険者と考えると。正直、どうだろう?
フロリアは不安そうな表情でオレを見ている。
「・・・駄目、かな」
「うーん。わかった、オレがいる宿に行こう」
「・・・いいの!?ありがとう!よろしくね!・・・あ、あとで道案内して?どんなところなのかなあ・・・!」
すでに宿に行った後の事を想像しているらしい。
フロリアを連れて行くのは、少し躊躇する部分もあるけれど。
でも、最初はみんな、海のものとも山のものともつかないわけで。
オレだってきっと、傍から見ればひどいものだったのだろうし。
こういうのは順番だしな。
「何か準備する事はあるのか?」
「ううん、すぐに行けるよ!」
「じゃあ行くか、ロリリア」
「・・・・」
オレとフロリアは、「瞬く星屑亭」に向けて歩き始めた。
フロリアは時々スキップしながら、鼻歌交じりについてきている。
賑やかな宿が、さらに賑やかになりそうだ。
「ただいま」
「ベルント!大丈夫だったか?妖魔は?」
「・・・・」
宿に戻ると、親父さんが駆け寄ってきた。
オレは無言で、後ろに隠れていたフロリアを前に引っ張り出す。
「・・・このお嬢ちゃんは?」
「妖魔」
「・・・・」
「ガセだよ。ちょっかい出されたのはこの娘で、魔法で脅かして追い返しただけだってさ」
親父さんもオレと同じようにため息をついた。世も末だな。
「通報者」が宿にまだいたら小突いてやろうと思っていたが、すでに立ち去ったという。
「宿に泊まりたいっていうから連れてきた」
「お前が面倒見るのか?」
「ええっ!?何でそうなる??」
親父さんがフロリアの顔をしげしげと眺めている。
ここでもオレと同じように「大丈夫かな」と思っているらしい。
この容姿で「冒険者になりたい」と言われたら大半の人間は同じリアクションをするだろう。
「長命なエルフとはいえ、なりは子供だ。保護者なしでは受け入れられん」
「親父さんが保護者でいいじゃないか」
「仕事はどうする。幸い、お前は新入りの扱いも慣れてるだろう。どうだ、お嬢ちゃん」
「いいよ~。宜しくね、パパ!」
「はっ!?」
何て強引な。嫁さんもいないのに子供が出来るとは。
確かに、パーティはオレも含めて全員、冒険者の経験は皆無で始めているが慣れている訳じゃない。
「種族が違うだろう。サラッとパパとか言わない」
「小さい男だな。親子の縁は血の繋がりだけじゃないんだぞ」
「そんな無茶な・・・」
「どうしたのベルント・・・あら、また女の子連れてきたの?」
話が聞こえたのか、厨房から娘さんが顔を出した。
しかも何気に酷い事を言っている。
「ちょ、言うに事欠いてそれか!」
「犯罪、ダメ、ゼッタイ」
「違うから!」
「あはははは!」
オレと娘さんのやり取りを聞いていたフロリアが笑い出した。
楽しんでもらえるのは何よりだが、漫才をしているわけではない。
娘さんに連れられ、階段を上がっていくフロリア。まだ笑っている。
「後で仕事の準備するから、降りて来いよ」
「は~い!」
何が出来るのか、何が出来ないのか。
分からないまま連れて行けば命に関わる事になりかねない。
最初はお使いからになるのだろうが。
テーブルの食器を片付けながら、親父さんが呟いた。
「明るい子のようだが、苦労したんだろうな」
「・・・そうだな」
「ところであの子の名前は?」
そういえばまだ言ってなかったか。
そもそも、オレが聞いたのも本名かわからないわけだが。
いざ聞かれると、思い出せない。
「ええと。ロリ・・・ロリロリ?」
「儂に聞くな」
シナリオ名/作者(敬称略)
花咲姫/烏間鈴女
groupASK official fansiteより入手
http://cardwirth.net/
収入・入手
牡丹の姫、雪待草の姫、白百合の姫
支出・使用
2600sp
キャラクター
(ベルントLv3)
スキル/掌破、鼓枹打ち、岩崩し、鼓舞
アイテム/ロングソード
ビースト/
バックパック/
所持金
9572sp→6972sp
所持技能(荷物袋)
エフィヤージュ、撫でる、投銭の一閃
所持品(荷物袋)
青汁3/3×3、ジルの酒3/3、黄楊膏3/3、傷薬×5、緑ハーブ2/2×4、はちみつ瓶5/5×2、万能薬×2、葡萄ジャム3/3、コカの葉×8、青ハーブ2/2×2、葡萄酒×5、鬼斬り、ジョカレ、聖水、手作りチョコ、チョコ、昼ごはん、激昂茸、おさかな5/5、マンドラゴラ、肉!2/2、ムナの実×3、識者の眼鏡2/3、術師の鍵4/4、悪夢の書、光弾の書×2、火晶石×2、太陽石3/3、冷氷水×2、スティング、クリスタル、つるはし15/15、鎌、石蛙、ガラス瓶(ノミ入り)×2、遺品の指輪、笛、冒険者の日記、感状
召喚獣、付帯能力(荷物袋)
グロウLv7
加入キャラクター
(フロリアLv1)
スキル/牡丹の姫、雪待草の姫、白百合の姫
アイテム/
ビースト/
バックパック/
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