「・・・やっぱり無いよなあ」
オレは廊下を歩きながら、ため息をついた。
リューンの「賢者の塔」は大きな組織ではあるが、「賢者の塔」として一般に販売しているのは一部の技能のみ。
オレも不恰好ながら、それなりに経験を積んできた。今後は依頼の難度も上がるはず。
単独で動く事が多い以上、剣だけ振っているわけにはいかない。
古代文明や魔物に関する知識、鑑定、解読などで困る事も予想される為、何か役に立つものは無いかと思ってやってきたのだが。
残念ながら、成果なし。
宿の冒険者仲間に譲ってもらうなり、賢者の塔の知り合いを紹介してもらうしかなさそうだ。
この塔の魔術師自体はショボいわけじゃないしな。
とりあえず、宿に戻ろう。
「はあ・・・っ!?」
再びため息をつきながら歩いていたオレは、ビクッとして立ち止まった。
子供の叫び声、だろうか?通りかかった一室から、突然聞こえたのは。
扉に貼られたプレートには、「魔道具開発研究同好会」という長い名前が書いてある。
(同好会?)
中からはわいわいと騒がしい、・・・子供の声がする。
さて、入ってみるべきか?
それともこのまま帰ってしまおうか?
いつの間にか、部屋の中の声は聞こえなくなっていた。
無人の静けさというよりは、無理やり静寂を作り出して息を潜めているような。
オレはしばし扉を見つめた後――――黙って塔の出口を向いた。
胡散臭過ぎる。
「・・・かえ、」
「お待ちになって―――、ですわ!!」
「!?」
恐ろしく必死な呼びかけに振り返ると、オレが見ていた扉が開いて少女が顔を出している。
オレを呼んだのか確かめると、少女はすごい勢いでブンブンと首を縦に振った。
頭の大きなリボンも一緒に揺れている。
「え、ええと、こんな所で立ち話も何ですから、中へいらっしゃいませんこと!?」
「いやオレはかえ―――」
「遠慮なさらずに!さあこちらへ!!」
少女は飛び出してきてオレの腕をがっしり抱え込み、全力で部屋の中に引っ張り込んだ。
ご丁寧に扉をロックし、一仕事終えたいい笑顔で近くの椅子に腰を下ろす。その周りに、少年少女が計三人いる。
平然としていたりオロオロしていたり、額に手を当ててため息をついていたりと三様なリアクションをしている。
妙な沈黙に耐えかねたのか、気の弱そうな子供がおずおずと口を開いた。
「・・・い、いらっしゃいませ・・・」
「別に取って食われる訳でもないんだから、もうちょっと堂々としなよ」
勝気そうな子供がすかさず突っ込みを入れる。
先に話した方が少年、後が少女らしいが逆のような気がしないでもない。
子供の頃は特に、女の子の方が強くてしっかりしてたりするか。
「あら、あらあら、初めてのご来店ですのね!それでは早速説明を―――痛たあっ!?何してくれますの!」
オレを部屋に引っ張り込んだ少女が話し始めると、勝気そうな少女がスパーンとハリセンで引っぱたいた。
ハリセンをどこから出したかはともかく、いい角度と音。絶妙なツッコミだ。
「君が出ると大体変な方向に走るから。・・・えーと、ようこそ、魔道具開発研究同好会へ!」
勝気そうな少女が言うには、ここは賢者の塔の学生の有志が集まって魔道具を開発、研究するサークルらしい。
一般開放しているものの立ち寄る人も少なく、寂しかったようだ。
「なるほど、それでたまたま通りかかったオレが捕まったわけか」
「う~ん、すぐに買ってとは言えないけどね、とりあえず見て行ってほしいな」
「用件はわかったが、その前に聞いておく事がある」
「?」
四人はお互いに顔を見合わせて首を捻り・・・そのままオレに向き直った。
八つの瞳にクエスチョンマークが浮かんでいる。
「オレはリューンで冒険者をしてるベルントだ。君等の名前がわからないと話が出来ないぞ?」
「「「「あっ!」」」」
声が揃った。全員、素で忘れていたらしい。
バツの悪そうな顔で、それぞれキード、サディル、ネカル、ナウスと名乗った。
少年、少女のままではややこしくて会話にならない。
「じゃ、自己紹介から行こうか」
「まずは会長のわたしからですわ!」
このサークルの会長、サディル。オレをこの部屋に引っ張り込んだ少女だ。
話してみると、ただのいたずらっ子どころか、中々優秀な印象すら覚える。
他人と目の付け所が違う為に、理解を得にくい所はあるかもしれないが。
副会長であるキードとサディルの掛け合いは、他の二人が静かな事も相まってこの部屋の騒がしさを際立たせている。
時には喧嘩に見えるものの、仲はいいようだ。
「サディルの作る道具って、大概ただの悪戯グッズにしか見えない様な気がするんだけど」
「悪戯グッズと言いまして・・・?わたしの研究成果はそんなものではありませんことよ!
的確に作動し的確に相手を困らせる!魔道具としては便利な品の数々、どうぞご覧になってくださいな!」
「実力発揮する場面からして色々間違えている様な気がするんだけど・・・」
「いや、そうでもないぞ」
「えっ?」
オレが口を挟むと、サディルはキードに向かって「ほら御覧なさい」と言うように胸を張った。
見た目は何だが、アイテムの効果と精度を考えると、使いどころはありそうだ。
「まあ、作った本人が悪戯に使っているのだから、悪戯グッズに違いは無いがな」
「・・・・」
調子に乗らない程度に、きちんと釘を刺しておく。
ただ、「役に立つ物を作りたい」という思いを持っているから、酷く害のある物をリリースしたりはしないだろう。
・・・たぶん。きっと。そう願いたい。
キードは勝気でしっかり者。世話焼きな一面も窺える。
サディルの言動にスパスパとハリセンで突っ込みを入れるお目付け役。自分で買って出たのだとか。
手先が器用で細工が得意で編物が好きだという、魔術師としては珍しいタイプだろう。
「魔法の鍵」の魔力を込めたアイテムの類は、一般的にあまり器用でない魔術師の為に開発されたとも聞く。
「この細工は大したもんだな。そっちでも食っていけるんじゃないか」
「そ、そうかな?」
「当然でしてよ!キードの細工は、って―――痛たあっ!?何するんですの!」
「・・・・」
意外に照れ屋なのかもしれない。
気の強そうな見かけに反して、自分に自信が無いのだろうか。
それとも自信が無いから、懸命にしっかりしようとしているのか。
自分の足跡や、成果を残したいという漠然とした希望を持っている様子。
そうする事で自信を持ちたいと考えているのか。
「賢者の塔」の学生であっても、適性が必ずしも魔術師向きでないのは自覚しているらしい。
器用さは大きな武器だ。
選択肢は魔術師だけじゃないと思うが、そこで生きる道もあるはず。
長所短所を特性だと認識できるかどうか。
自分だけの強みを生かす事に気付いた時、キードは稀有な魔術師になれるかもしれない。
そもそも、魔術師として求められる要素を抜き出してみればそう多くない。
剣士であるオレがスピードとパワーだけで競おうとしてもすぐに行き詰まるに決まってる。
それと同じじゃないかな。
「で、次はネカルか?」
「あ、はい・・・」
内気にして人見知りな少年、ネカル。さらに臆病らしい。
作ったアイテムは精霊そのものでなく、その力のみを封じたものだった。
精霊宮の範疇な気もするが、精霊との交信や使役を考えないのならば、やはり賢者の塔寄りか。
本人も精霊そのものを玉に封じるのは嫌だと言っているのだが、精霊宮では邪道扱いされそうな気もする。
ま、余計なお世話か。
魔術と精霊術の融合は、言うほど楽ではないだろう。
だからこそ賢者の塔と精霊宮が存在するわけで。
精霊術師と一口に言っても、精霊との関わり方は人それぞれだとか。
魔術師を目指す彼はなおさら、そのバランスに悩んでいるのかもしれない。
ちなみに、歌が好きでよく口ずさんでいるという。
だったらますますシャーマンとかバード系のような。
メイジとシャーマンよりも、バードとシャーマンの方が親和性はありそうに思えるのだが。
やっぱり、大きなお世話か。
ナウスはひたすらマイペースで片付けが苦手。
「苦手」というのは、実は記憶力がよくて置いた物の場所を忘れない為、片付ける必要が無かったらしい。
すごい才能なのだが、他人はそこまで覚えていないから邪魔でしかない。
ナウスはキードと逆に、閃くアイデアを自力で形にする能力が足りないと考えている様子。
魔術師らしいといえば魔術師らしいのだが。
一人だけ年齢が下でありながら、他の三人より年長のような落ち着き。
基本は本の虫だが、この場所で仲間と一緒に事を成す楽しさを見出したようだ。
「ほう・・・オレが使えるのが、あるかもしれないな」
「そう?気に入ったのがあったら言ってね」
オレの言葉を聞いた他の三人が「むーっ」と唸っている。
苦笑交じりにフォローを入れた。
「勘違いするなよ。オレの能力で足りない部分を補完出来そうなアイテムを、ナウスが扱ってるかもしれないというだけだ。
他が一般的に使えないとは言ってないぞ」
「わかってますけど・・・悔しいですわっ」
「それはわかってないだろ」
この辺はまだまだ子供だ。
ともあれ、解読の魔法を込めた「識者の眼鏡」と魔法の鍵の効果を持つ「術師の鍵」、それから鑑定に使えそうな「識者の虫眼鏡」を購入。
どれも大事な所で必要になるらしく、ずっと探していた。
実際に発動するか確認してから実戦投入の運びかな。
ついでに、まだ唸ってるサディルの頭をポンポン叩いて、「バナナの皮」を購入。
半端に使えそうなものより、大事な所で役に立つかもしれない。
もちろん、使えなくても諦めがつく。
「どうぞ。上手にお使いくださいませ」
サディルは機嫌を直し、ニコニコしている。
これを上手に使うには、かなりのセンスが要求されそうだが。
何せバナナの皮だ。どこでどう使えばいいやら。
「それで、あの棚は?」
オレが薬品のような瓶が置かれている棚を指差すと、室内の雰囲気が一変した。
さらに笑顔になるサディルと、眉間に皺を寄せる他三名。
「あ、それは―――」
「そこでしたら、わたしの管轄ですわね!」
キードの言葉を遮って、ずいと前に出るサディル。
慌ててナウスとネカルも止めようとするが、サディルは意に介さず押し切った。
「・・・お騒がせしましたですわね。こちらは薬品棚になりますの。
ちょっと変わったものばかりですが」
「・・・・」
この娘の言う「変わったもの」と言う品々。
触れないほうがよかったのかもしれない。
瓶のラベルを一通り見て、その思いはさらに強くなった。
慎重に瓶を棚に戻す。
「うん、見た。もういいよ」
「どうしてですのー!?」
「ベルントさんがまともな人でよかった・・・」
おかんむりのサディルをよそに、他の三人は胸を撫で下ろしている。
薔薇とか毒とか転生とか、ラベルの文字からして危険すぎる。
オレは確かに「冒険者」ではあるが、こういう冒険は嫌だ。
「ま、まあ、他の冒険者にもここを覗いてみるように伝えておくから」
「・・・仕方ありませんわね」
何とか機嫌を直してくれたようだ。
望外な収穫もあったし、見れるものは一通り見たし。
・・・子供の相手も少々疲れてきたし。
「買うもの買ったし、そろそろ行くかな」
「えー!」
子供達、大ブーイング。
気に入られたと思えばいいのかな。
自分達で作った魔道具が売れたのが相当嬉しかったのか、四人は塔の入り口まで見送りに来た。
塔の中の人間も外を歩いている人間も、オレ達を不思議そうな顔で見ている。
全力で他人のふりをしたい気分だ。
「また来てねー!」
「お、おう・・・」
ステレオで手を振られて恥ずかしい事。
オレは苦笑しつつ手を振り返すと、足早に塔を離れた。
しばらく近づかないでおこう。
とはいえ買った品を見てみれば、悪くない出来だと思う。
子供といっても賢者の塔の学生だという事かな。
ちゃんと使えるようだったら、本当に宿の連中に推薦してやるか。
・・・使えたら、の話だが。
シナリオ名/作者(敬称略)
魔道具開発研究同好会/烏間鈴女
groupASK official fansiteより入手
http://cardwirth.net/
収入・入手
識者の眼鏡、識者の虫眼鏡、術師の鍵、バナナの皮
支出・使用
2000sp
キャラクター
(ベルントLv3)
スキル/掌破、魔法の鎧、鼓枹打ち
アイテム/賢者の杖、青汁3/3、ロングソード
ビースト/
バックパック/
所持金
5370sp→3370sp
所持技能(荷物袋)
氷柱の槍、エフィヤージュ
所持品(荷物袋)
傷薬×4、青汁3/3、万能薬×2、コカの葉×6、葡萄酒×2、イル・マーレ、聖水、うさぎゼリー、うずまき飴、激昂茸、ムナの実×3、識者の眼鏡、識者の虫眼鏡、術師の鍵、バナナの皮、ガラス瓶(ノミ入り)×2、破魔の首飾り、魚人語辞書
召喚獣、付帯能力(荷物袋)
グロウLv3
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