Page5.剣に焔を纏う戦士(焔紡ぎ①)

「親父さん、この貼り紙は?」

 壁に貼られた依頼書の中に、依頼とは違う内容の貼り紙が交じっていた。
 今のオレにとっては魅力的な内容の。

「それを貼りだしたのは儂だ」
「それはそうだろう」
「・・・まあ聞け」

 オレが習得する剣技を探している事は、親父さんも知っている。
 親父さんは、「宿に所属する他の冒険者にも需要があるかもしれない」と、自分でも探してくれていたらしい。
 そんな時、リューンの南西にあるガロワの森に、行方の知れなかった高名な剣士がいるという話を聞いて真偽を確かめた。
 実際に森に剣士が住んでいる事を知ると、彼と自ら交渉して「親父さんの紹介した冒険者限定」で、技の指南を引き受けてもらえる事になったそうだ。
 その剣士、人呼んで「焔紡ぎ」のワディムと言い、自らの実力もさる事ながら指南役としても相当なものなのだとか。





 冒険者には、これといった資格や試験が無い。
 だからある意味「自分は冒険者だ」と名乗ってしまえば、それが通ってしまう部分もある。
 町のごろつきやチンピラや、山師のような連中が冒険者を名乗る事もあり、それが世間一般の冒険者のイメージを悪くしているのかもしれない。
 オレも裏口から入ったようなものだから、あまり言えないのだが。

 それだけに、「宿の看板」「亭主の顔」というのは、この業界のみならず世間でも大きな意味を持つ。
 名前を出して信用される「冒険者の宿」とは、先輩冒険者や宿の亭主が地道に誠実に依頼をこなし続けてきた証。
 色んな理由で評判は落ちる事もあるし、油断は出来ないのだが、そういう宿に偶然出会い、所属出来た事はオレにとってこの上ない幸運だったと言える。
 完全に飛び込みだったのだから。





「親父さん、そのワディムという剣士の事、他に知っているかい?」
「そうだな・・・」

 「魔の森」と呼ばれ、魔物も出るような場所のようだし、ピクニック気分では行けそうにない。
 オレは親父さんから聞けるだけの話を聞いて、ガロワの森へ出発した。

「・・・お前に合う技があればいいな」
「大いに期待して行ってくるよ」





 ガロワの森の奥深く。
 親父さんからもらった地図には危険な場所を避けるルートが記載されていた為、道中に問題は起きなかった。
 が、現地近くでロシが何かに気づいたようだ。
 少し進むと、廃墟のような建物があり、人の姿が見える。

「よく来たな、俺はワディム・ヴィユギン。ジナイーダと一緒に世間から離れて暮らす隠者みたいな者だ」
「オレは『瞬く星屑亭』のベルント。親父さんの紹介でやってきた。よろしく頼む」

 オレの前にいる、鋭い目をした男。
 剣を合わせずとも相当な実力者である事が、オレのようなひよっこにさえ感じ取れる。
 ジナイーダというのは妻の名なのだろうか、彼以外には誰も見当たらないが。
 ・・・いや、黒豹が一頭、静かに佇んでいる。
 最初は驚いたが、ワディムが何とも思っていないようだからオレも気にしない事にした。

 ワディムが教える技は、彼が戦場や訓練で身につけた技で筋力が必要とされるらしい。
 器用さより、敏捷さより、重い剣を操るのに筋力が大事なわけか。
 オレに向いているかもしれない。
 奥義ともいえる技も教えているそうだが、当面、オレには縁が無いだろう。

「・・・ベルント、と言ったな。何か系統立てた剣技を、時間をかけて身につけているんじゃないのか?」
「わかるのか?」
「それは、型を身につけた者の動きだ。その技を使えばもっと力が出せるだろう」
「かもしれん。だが、二度と使わないと決めた。それでここに来ている」
「・・・そうか」

 ワディムはオレの素振りから受けた違和感を口にしたものの、深く詮索する事は無かった。
 指摘された部分を意識しただけで、自分の動きが変わったのがわかる。
 一流の指南役という触れ込みは伊達では無かったようだ。
 肝心の技の方に対しても期待が高まっていく。

 オレの実力を見極めた上で、ワディムはオレが習得可能と思われる技を簡単に見せてくれた。
 少々動きが忙しい気もするが、アレトゥーザで見た技よりもこちらの方がオレに向いているかもしれない。
 選んだのは、「鼓枹打ち」。二連撃の初撃で敵の動きを止め、二撃目で仕留めるというものだ。
 その二撃目の威力は強くないが、相手によってはもう一度攻撃を仕掛ける事も出来るだろう。
 強い敵と戦う事になれば、敵の手数を減らせるに越した事は無い。
 懐具合が厳しく、また現状では多くの技能を駆使出来ない為に当面欲しい技だけにしておく。

 念入りに習って通常より高くついたものの、実戦で身を助けるのならば払うだけの価値はある。
 平均以上ではあっても特筆できる程の腕力は無く、敏捷性も無いオレには敵の足を止められる手段は必須だ。
 それなりの実力を身につけるまでは、特に。

「・・・次に『ゴブリンの洞窟』みたいな状況に遭遇したら、さすがに死ねるしな」
「何か言ったか?」
「いや、こっちの話さ」

 存外にオレが不器用なので、ワディムも少々面食らったようだ。
 覚えたものはそれなりにこなすが、身につけるのに時間がかかるのは、自覚がある。
 故郷にいた時も承認試験に何度も落ちて、親族をずいぶん落胆させたものだ。

 技の習得に目処がつき、休息している間にワディムの話を聞いた。
 ジナイーダというのは、彼のそばにいる雌の黒豹の名。
 妻はエウフロシュネと言い、エルフなのだがすでに亡くなったらしい。悪い事を聞いたかもしれない。
 妻の話をする時、ワディムは遠くを見るような目をしていた。
 それから、ガロワの森に魔物がいるのは、かつてこの地にあった「ウージョ」という都市で起きた争いの名残だという。

「ふう、何とか帰れる程度には回復したようだ。鍛錬は欠かしていないんだが、まだまだだな」
「まだまだ、という事は、これからもっと強くなれると言う事だ」
「精進しなくては。今日のところはこれでお暇するよ。ジナイーダも達者でな」
「・・・・」

 言葉が通じているのか、ジナイーダはこちらをじっと見ていた。
 何か通常の獣とは違う知性のようなものを、彼女の目から感じるように思えるのだが・・・気のせいだろうか。
 オレはロシの背に上がると、ワディムとジナイーダに軽く手を上げて廃墟を後にした。
 ロシも黒豹の隣で待たされて、気が気じゃなかったろう。
 蛇に睨まれた蛙のような心持ちだったかもしれない。





「ただいま、娘さん」
「あ、ベルントお帰り」

 宿に戻ると娘さんがテーブルを拭いていた。
 親父さんは所用で外出しているんだとか。

「買い物してたの?」
「いや、親父さんの紹介で鍛えてもらってきたよ」
「ガロワの森?危なくなかった?」
「安全なルートを教えてもらったから。師匠がオレの覚えの悪さに驚いてたよ」
「そんな風には見えないわよ?はい、お水」
「実際、不器用なんだよ。ありがとう」

 娘さんが出してくれたグラスの水を飲み干し、一息ついた。
 武器にする技を身につけ、実力的にも以前に近いところまで戻った。
 後は実戦の中でどうなのか。

「・・・戦わずに済むなら、それが一番いいんだけどな」
「何か言った?」
「いや、独り言」
「年寄りくさいわよ、ベルント?」

 娘さんの言葉に、思わず苦笑した。
 年齢不詳の人は言われたくないよな。










シナリオ名/作者(敬称略)
焔紡ぎ/Mart
Vectorより入手
http://www.vector.co.jp/

出典シナリオ/作者(敬称略)
アレトゥーザ「碧海の都アレトゥーザ」/Mart
ゴブリンの洞窟「ゴブリンの洞窟」/齋藤 洋

収入・入手
鼓枹打ち(スキル)

支出・使用
800sp

キャラクター
(ベルントLv1)
スキル/掌破、魔法の鎧、鼓枹打ち
アイテム/賢者の杖
ビースト/
バックパック/

所持金
2600sp→1800sp

所持技能(荷物袋)

所持品(荷物袋)
傷薬×2、聖水、葡萄酒、コカの葉、卵

召喚獣、付帯能力(荷物袋)

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