Page14.ある日、森の中(Me~roam~)

「全く・・・」

 足取りが重い。愚痴も出る。
 木々の間から見える風景も心を癒してはくれない。

 魔が差した、としか言いようがない。
 「古代文明期の財宝が眠っている」と熱心に訴える依頼人の言葉に乗り、辺鄙な山の中まで同行したはいいものの。
 調査、運搬、穴掘りと力仕事にコキ使われた挙句、当然ながら成果ゼロ。
 オレに落ち度は無いのに報酬を散々値切られ、近場の町で契約が終わった所で帰ってきた。
 仕事の良し悪しを言うのは好きではないが、今回ばかりは滅多にない「大ハズレ」だ。

「早く帰って酒でも飲みたいな・・・」

 こんな時、傷つき疲れ果てた心と身体を癒すのは、親父さんの揚げじゃがをツマミに飲むエールと決まっている。
 オレの今回の「冒険譚」は、宿の冒険者仲間の酒のツマミにされそうだが。

「おっと!?」

 急に軽い眩暈を感じ、オレは立ち止まった。
 少々疲れてはいるものの、体調が悪いわけではない。
 宿に戻ればちょっと硬めのベッドが待っている。
 オレは再び歩き始めようとした。

「・・・何だ?」

 何やら音が聞こえた気がする。
 耳を澄ます。

「・・・・」
「・・・泣き声?」

 微かに、だが確かに、子供が泣いているような声が聞こえる。
 自分の耳を頼りに道を外れ、茂みに入る。
 声がは少し、はっきりと聞き取れるようになった。
 近づいたようだ。
 そのまま進んでいく。

「・・・・」
「う゛っ、ぇぐっ・・・ひくっ」

 子供だ。どうしてこのような山の中に一人でいるのか。
 頭には耳のような二つの突起が見て取れる。
 獣人だろうか。

「坊主、どうしたんだ?」

 目の前で子供が泣いている。悩む所じゃないよな。
 オレが声をかけると、子供は顔を上げた。
 涙やら鼻水やらが入り混じってすごい事になっている。

「あ、あのね、ヒック、用事があるからその場所までね、ウッ、行こうとしたら、迷っちゃって・・・うわーん!」

 自分の状況を説明しているうちにもっと悲しくなったらしく、子供は盛大に泣き出した。
 顔を拭くように、と差し出した手拭いで思い切り鼻をかまれたが、グッと我慢する。
 オレは荷物袋に手を突っ込んだ。まずは泣き止ませるのが先か。

「よし坊主、いいものをやるから手を出しな」
「・・・これ何?」
「うずまき飴だ」
「!!」

 子供にモノを与えて気を逸らすのは褒められた事じゃないが、今回は非常時という事で勘弁してもらおう。
 ともあれイリスお手製のうずまき飴を手にして、子供の表情がパッと輝いた。
 心の中で「よし」と拳をグッと握り締める。

「それで坊主、どこに行こうとしてたんだ?」
「こっ、この森を抜けた先にある、大きな家なんだ・・・っ」

 子供の目に、再び涙がたまっていく。
 まずい。このままでは僅かな努力とうずまき飴が水泡に帰す。

「じゃ、じゃあ。一緒に行くか?」
「えっ・・・いいの?」
「おう」

 置いて帰るわけにもいくまい。
 オレは宿に戻るだけだしな。

「わぁ、ありがとう!!僕の名前はロームって言うんだ。よろしくね!」
「オレはベルントだ。じゃあ、行こうか」
「うん!」

 ロームと名乗った子供はパッと立ち上がり、走り出した。
 現金なやつだ。むしろこれくらいの方が可愛げもあるか。

「・・・・」

 先で立ち止まり、手に持った何かを見ているローム。地図があるらしい。
 持ってて迷ったら地図の意味がまるで無いのだが、子供では仕方ない。
 ロームがこちらにブンブンと手を振っている。

「えっと、多分こっち!はやくはやくー!」
「速すぎるぞ」
「あはは!あはは!はやくはやくっ」

 多分て。それは地図持っても迷うに違いない。





 オレ達は小川のほとりへ出て、上流に向かって進んでいく。
 ロームは一度見えなくなるほど先に走っていったが、今度は戻ってきてオレの周りをグルグル回り始めた。
 子供の元気さはうらやましい限りだ。
 オレは軽く、気になっている事を聞いてみた。

「ローム、頭のそれ、耳か?」
「うん、僕は獣人なんだよ~。こう見えても狼なんだ」
「ネコだろ?」
「違うもん!狼だもん!がおー!」

 狼が吼えているつもりなのだろうか。
 笑いながらグルグル走っている。

 ロームは離れて暮らしている両親に会いに行く所だったらしい。
 今年は両親の家が別な場所に移った為に通る道が変わって、迷っていた所にオレが通りかかったわけだ。

「今日はベルントさんが来てくれてよかった!
 ずっとあの場所は嫌だったから・・・ホントにありがとう!」
「どういたしまして。足元見てないと転―――」
「痛っ!」

 言わない事じゃない。
 教える間もなく、段差に引っかかり転ぶローム。
 だが笑いながら、元気に起き上がった。





 途中で道が通れなくなっていた。
 ロームも首を捻っている。

「ちょっと地図、見せてくれ」
「あ、うん」

 地図上で気になる箇所を見つけ、付近を調べてみる。
 すると茂みでわかりづらい獣道が出てきた。

「おかしいなあ、あっちの道でも行けたはずなのにねぇ・・・まあいっか!」

 大して気にする様子もなく、細い道へ駆け込むローム。
 しかし、両親はずいぶん不便な場所で暮らしているんだな。
 恐らくは獣人だからなのだろうが。

 獣人、と一口に言っても、見た目から性格まで様々だ。
 だがその大半は、人目を避けて静かに暮らしている。
 人と関われば、異形として迫害されるのが目に見えているからだ。





「そうそう、この道を真っ直ぐ行くと家に着くんだった!ありがとねぇ」

 目的地に近づいた事がわかったらしく、ロームはまた駆けていった。
 少し先が明るくなっている。
 もうすぐ森を抜けそうだ。

 開けた場所に出ると、目の前に大きな屋敷が現れた。
 これがロームの両親の家だろうか。

「これは豪邸だな、ローム・・・?」

 呼びかけて周囲を見回すが、先に来たはずのロームの姿は無い。
 屋敷に近づくと、建物は少々傷んでいるように見える。
 入り口の扉を叩くが応答は無く、人の気配も感じられない。

「・・・・」

 嫌な予感がして扉に手をかけた。
 何でも無かったら謝れば済む。

 扉は大きく軋んだような音を立てて開いた。
 手応えが重い。長期間放置されているような感じだ。

 屋内に入り、その思いは強くなった。
 うっすらと全体に埃が積もっている。

「ローム・・・」

 呼びかけに答える声は無い。
 歩を進める毎に埃が舞い上がる。
 外套の裾で口元を押さえながら、次々に扉を開けていく。
 だが、ロームの姿はどこにも無い。

 ある扉を開けると、本棚が並んでいる場所に出た。
 オレも多少は本を読むが、目の前にあるのは記憶に無いタイトルのものばかり。
 日記のような背表紙を見つけ、手に取る。
 文字と文体から見て、女性のものだろうか。

「・・・・」

 恐らく、ロームの母親が綴った日記。
 黙って棚に戻し、別な棚の古いノートを手に取ってみる。
 こちらは子供の落書き帳のようだ。
 ページをめくると、幸せそうな父と母と、子供の獣人の絵が次々に現れる。
 幼い字で「おかあさんとおとうさんだいすき」と書かれていた。

(・・・そうだったのか)

 オレはノートを本棚に戻し、その場を離れた。
 もう、ここを探す必要は無さそうだ。
 詳しくではないが、ロームの身に起きた事は大体わかった。





「っ!?」

 屋敷を出ると急に強い風が吹き付けてきた。同時に襲ってくる地響き。
 咄嗟に腕で目を覆い、風が弱まってから腕を下ろす。
 と、周囲の風景は一変していた。

「ここは・・・」

 ロームが泣いていた場所。
 オレの前にあるのは、白骨化した子供の死体。
 ロームの母親の日記の通り、狩人に殺されたというローム本人に違いない。
 オレが与えたうずまき飴を大事そうに抱え、木にもたれている。

「・・・両親に、会えたのか?」

 答えは無い。
 だが、ロームがあの笑顔で頷いているように思えた。
 苦笑しつつ頭をかく。

(やれやれ、オレもとんだロマンチストだよ)

 そっとロームの亡骸を抱え上げ、辺りを見回す。
 「ずっとこの場所は嫌だった」と言っていたし、別な場所に埋葬してやろう。
 はしゃいでいた小川が見える所など、どうだろうか。





 墓標の代わりに可愛らしい石を探し、盛った土の上に置いた。
 一陣の風が吹き抜ける。

「これからは、お前がここで迷った人を助けてやってくれよ」

 オレはロームの墓に背を向け、歩き始めた。
 宿に帰って話しても、誰も信じてくれないだろうな。










シナリオ名/作者(敬称略)
Me~roam~/南瀬
groupASK official fansiteより入手
http://cardwirth.net/

出典シナリオ/作者(敬称略)
イリス「胡鳥之夢」他/レカン

収入・入手

支出・使用

削除
うずまき飴

キャラクター
(ベルントLv2)
スキル/掌破、魔法の鎧、鼓枹打ち
アイテム/賢者の杖、青汁3/3
ビースト/
バックパック/

所持金
5070sp

所持技能(荷物袋)
氷柱の槍

所持品(荷物袋)
傷薬×4、青汁3/3×2、万能薬×2、コカの葉×6、葡萄酒×2、イル・マーレ、聖水、うさぎゼリー、うずまき飴、激昂茸、ムナの実×3、ガラス瓶(ノミ入り)×2、破魔の首飾り、魚人語辞書

召喚獣、付帯能力(荷物袋)
グロウLv3

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