目に留まった貼り紙は、沼地での植物採集依頼だった。
報酬は銀貨300枚、詳細は依頼人の家にて。
親父さんに見せると、「駆け出しにはいいんじゃないか」と言う。
依頼人の家はこの宿の近くだと言うし、素性の心配は不要そうだ。
「じゃ、これ行ってみるよ」
「気をつけてな」
親父さんから受け取った依頼書をヒラヒラと振って、オレは宿を出た。
仕事は、出来る時にやっておいた方がいい。
これからどんどん、金がかかるようになるだろうし。
通りの反対側では、雑貨屋の花壇の前で、イリスが花に水を遣っている。
花が好きだとは知っているが、本当にマメな娘だ。
楽しそうにしていたから声を掛けずに立ち去った。
依頼人の家に到着。
扉を叩いて少し待つと、冴えない感じの男が顔を出した。
通されたのは狭い上に殺風景な部屋。
期待して来たわけでもなし、聞く事を聞いてしまう。
依頼内容は、ミドロ沼に生えていると言うポクリ草と言う薬草を採ってくる事。
どうも数が少なく、見つけにくい草らしい。
ミドロ沼はヴィスマールの北西に位置すると言う。
これはロシの出番かな。日帰りはさすがに無理だ。
報酬は宿で聞いた通り、銀貨300枚。
「それ以上は絶対出しませんので」
「・・・・」
聞かれもしないのに言う辺り、かなり渋い依頼人のようだ。
弟子が定着しないようだが、ケチで偏屈ではそれもやむなしか。
とはいえヴィスマールまでの往復で、多少とはいえ危険が伴うのに300spは厳しい。
駄目元で吹っかけてみる。
「リューン近郊ならいざ知らず、経費込みでその額はキツ過ぎるよ」
「・・・いいでしょう、100枚ほど上乗せします。これ以上は絶対出しませんが」
言ってみるものだ。
「安すぎる」と断る事も出来る額だったし、三割アップなら上出来だろう。
後は依頼人が余計な事を言い出す前に出発するだけだ。
依頼人からポクリ草の資料を受け取り、退出する。
「ベルントさん、こんにちは!」
宿の前でロシの鞍を締めなおしていると、イリスが声を掛けてきた。
ちょうど花の世話を終えた所らしい。
「今日も精が出るな」
「綺麗に咲くようにって話し掛けながら水を遣ってたんです」
「それは花だって頑張ってくれるさ」
「元気に育ってくれたらいいんです」
花よりも、どう育てたらこういう娘に育つんだろう?
同じくらいの歳の子はもっとスレてると思うんだが。
「頼まれてたお薬、出来てますよ」
「おっ、貰っていこうかな。これから仕事なんだ」
「取ってきますね」
自分で頼んでおきながら、すっかり忘れていた。
イリスがパタパタと雑貨屋に駆け込み、待つ事しばし。
戻ってきたイリスの手にあったのは、袋とリンゴ。
「これはロシちゃんに。どちらに行かれるんですか?」
「ああ、ヴィスマールの方にね」
「気をつけてくださいね」
イリスにも親父さんと同じ事を言われ、思わず苦笑い。
オレはイリスにもらった袋を持ち上げて見せた。
「そりゃもう、この苦いの飲みたくないからなあ」
「そんな事言うと、もっと苦いの作りますよ?
ね、ロシちゃん」
「♪~」
イリスはクスクス笑いながら、ロシの首をポンポン叩いた。
その間にオレは、鼻を鳴らすロシの背に飛び乗る。
馬上からイリスに手を振り、通りを進み始めた。
「じゃ、行ってくるよ」
「はい、お気をつけて!」
オレは周囲を見回して呟いた。
「・・・まあ、沼だよな」
何の変哲も無いと言うのも変だが、沼だ。
ミドロ沼までの道程も、全く何事も無かった。
この調子でポクリ草が見つかれば言う事は無い。
沼上を見れば、所々に木の板が巡らされている。
どうやらその板の上を伝って移動するらしい。
早速一回りしてみたが、それらしい草の生えた場所は見当たらない。
沼地に住んでいるのは依頼人が言っていたトードと、後はヘビくらいか。
足場が悪く、無駄な殺生もしたくない。
戦わないで済むものは避けて進んでいく。
もう一周通路を回ると、足場が途切れている場所があるのを見つけた。
少し先から、また木の足場が続いている。
「これくらいなら、飛べるだろう・・・よっ、と!」
ドボン。
普通に落ちた。そんなに鈍いつもりは無かったのだが。
少々ショックを受けながらも、何とか向こう側の足場へ。
底なしで無くて幸いだったが、嵌っているところを襲われたら面倒な事になりそうだ。
気をつけなくては。
ジャンプの失敗は最初の一度のみ。
ムナの実、激昂茸を見つけたものの、肝心のポクリ草は見当たらず。
まだ何も見つけてない場所を念入りに探してみる。
と、初めて見る草を発見。
「あった!」
間違いない、資料に記された特徴と同じ。
これを持ち帰って依頼完了だ。
依頼人から指示された通りに草を包むと、荷物袋にしまい込む。
少し嫌な予感がしていたら、案の定声が聞こえてきた。
「ちょっと待ってくれないか?」
やはり、すんなりは終わらせてもらえないらしい。
若い男女が絶妙のタイミングで、オレの帰り道を塞ぐように姿を現した。
「・・・こんな所で野盗なんて変わってるな」
「そんな訳無いでしょ。その草よ。
痛い目に遭いたくなければ、さっさと渡しなさいよ」
思った通り、狙いはポクリ草だった。
毒消しの他に香水にも使われる為に採り尽くされ、あまり残っていないとは聞いていたが。
かなり気の強い女らしく、強硬な態度だ。
「いっそ奪ってしまえばいいじゃないの」
「手段選ばずか。二人がかりで返り討ちに遭ったら、恥ずかしくて宿に戻れないぜ?」
「タダでとは言わない、銀貨400枚支払おう。どうだい?」
男女がそれぞれ別な事を言っている。
男の方は出来れば穏便に片をつけたいらしいが、女は「その草をよこせ」の一点張り。
「高圧的に言われる程、実力差があるとも思えないしな。渡す気は無い」
「・・・仕方ない、月並みだけど実力行使だ」
「最初からそうすればいいのに」
「そこだけは全く同感だ」
こっちもそれなりに苦労して手に入れた草だ。
理由も告げずによこせと言われ、素直に応じる義理は無い。
特に女の不躾な態度も不愉快極まりない。
オレも相手も、同時に得物を構えた。
「信じる神があるなら祈っておけよ」
「何よ!」
「大怪我しないで済むように、ってな!!」
「・・・おや、遅かったですね。まあいいです、早くポクリ草を渡してください」
この依頼人の物言いは、いつもこんな感じなのだろう。
しかし目的の物を手にすると、やはりうれしかったようだ。
「よくやってくれました、これからも頑張ってください」
「・・・?」
どういう風の吹き回しか、労いの言葉。
さらにわずかではあるが、報酬に上乗せがあった。
ミドロ沼で蹴散らした冒険者たちが提示したのは400spだったから、筋を通した甲斐はあったのかもしれない。
オレは礼を言って依頼人宅を後にした。
気乗りしなくても真面目にやって、後味良く終わる事もある。
大抵の場合は割に合わないと思うのだろう。
だがせめて、後悔しないようにしたいものだ。
宿に到着し、扉を開けると親父さんがこちらを見た。
「ただいま」
「おう、おかえり。なんだ、泥だらけじゃないか」
足場を踏み外して沼に落ちた、とは言えないよな。
曖昧に笑ってはぐらかす。
「はは・・・色々あって」
「裏で落として来い。食事を用意しておくから」
沼を抜ける前、さらに落ちたなんて絶対に言えない。
体を拭いて中に戻ると、親父さんがポトフの入った皿を出してくれた。
「お前もそれなりに冒険者らしくなったよ」
「泥だらけで?」
「ああ。仕事はしっかりやって来たんだろう?」
スープを匙で掬いながら、親父さんの言葉を噛み締める。
「それなり」か。本当に少しでも、それらしくなっていればいいんだが。
今日はいい夢が見れるだろうか。
シナリオ名/作者(敬称略)
ミドロ沼の冒険/Wiz
groupASK official fansiteより入手
http://cardwirth.net/
出典シナリオ/作者(敬称略)
イリス「胡鳥の夢」/レカン
(開始前に「胡鳥之夢/レカン」でアイテム「青汁」×3購入、薬草使用、300sp支払)
収入・入手
450sp、激昂茸、ムナの実×3
支出・使用
キャラクター
(ベルントLv2)
スキル/掌破、魔法の鎧、鼓枹打ち
アイテム/賢者の杖、青汁2/3
ビースト/
バックパック/
所持金
2820sp→3570sp
所持技能(荷物袋)
氷柱の槍
所持品(荷物袋)
傷薬×4、青汁3/3×3、万能薬×2、コカの葉×6、葡萄酒×2、イル・マーレ、聖水、うさぎゼリー、うずまき飴×2、眠雲の書、激昂茸、ムナの実×3、ガラス瓶(ノミ入り)×2、破魔の首飾り、魚人語辞書
召喚獣、付帯能力(荷物袋)
グロウLv3
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