Page9.オヤジ狩りの復讐代行(愚者たちの報い)

「まあ、話を聞いてみたらどうだ?ほら、そこにいる男が依頼人だ」

 なるほど、と思った。
 親父さんの言う通り、いかにも思い詰めた様子。
 リューン銀行勤務。銀行員ね、お堅い仕事だ。
 オレは依頼の詳細を聞く為、男に声をかけた。

「ちょっといいかな?」
「・・・!私に何か御用ですか?」

 自分の世界に入っていた所、急に声を掛けられて少し驚いた様子の男。
 オレは依頼書の貼られている掲示板を親指で指し示す。

「あの貼り紙の件なんだが」
「おお!ということは私の依頼を受けていただける?」
「それを判断するのに、話を聞きたいんだ」
「ああ、申し訳ない。貴方には重要なことですからね」

 オレは男の向かいに座り、男はこちらに向かって居住まいを正した。
 これと言った特徴は無いが、実直そうな感じだ。

「あなたに頼みたいのは、一応『復讐』・・・と言う事になるんでしょうかね・・・」
「復讐?」

 カウンターで皿を拭いている親父さんの頭が、ピクリと動いた。
 オレ達のテーブルはそれ程離れていないから、全部聞こえているのだろう。
 それにしても、薄い。主に髪の毛が。

 依頼人はある日、町のチンピラ達に絡まれて暴行を受け、所持金を奪われた上に身包み剥がされて全裸で路上に放置されたと言う。
 生活資金でもあった所持金を失ったのも然る事ながら、朝の町の路上で、全裸の状態で意識を取り戻した依頼人の心情を思えば・・・。
 それ以来、依頼人だけでなく妻子までも「変態」呼ばわりされるようになり、ついに妻子は男の元を去っていったそうだ。
 当然、治安隊に駆け込んだが犯人は捕まらず、「その後は何度掛け合っても終わった事として取り合ってくれなかった」と、男は無念そうに話した。

「私は許せないんです。幸せに暮らしていたはずなのにあれで全てが崩れ落ちました――」
「事情は分かった」

 オレは男の話を途中で遮った。
 これ以上喋らせれば、仕事の話にならなくなる。
 続きは親父さんが聞いてくれるだろう。

 依頼内容は、依頼人を襲ったチンピラ達を探し出し、「痛めつけた後で」治安隊に引き渡す事。
 その後は依頼人の友人が何とかすると言う。
 報酬は400sp。チンピラをぶちのめす程度ならそんなものか。
 吹っかける事も無いだろうが・・・。

(さて、どうするかな)

 依頼人の調査は不要に思える。
 話を偽ったり嘘を交ぜるメリットが、依頼人には無い。
 となると、必要なのはチンピラの素性と溜まり場、それとバックの有無の調査か。
 最後のが最も重要そうだ。それ次第かね。
 オレの手に負えない件なら、帰って来てそのまま報告するしかない。

「ああ、分かった。この依頼を受けさせてもらう」

 暗いままだった依頼人の顔が明るくなった。
 期待だけ持たせてもいけないが。

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
「その台詞は、オレが依頼を達成してからにしてくれ」
「え・・・あ、そうかもしれませんね」

 依頼人の顔が元の暗い表情に戻ってしまったが、希望に沿う結果になるまではこれくらいでいいだろう。
 オレは傍らの得物を手に持つと、入り口に向かった。

「親父さん、ちょっと行って来る」
「ま、せいぜい気をつけてくれ」

 オレは振り向かずに軽く手を上げ、宿を出た。何か物足りない気がする。
 そういえば、「無茶するな」と幻聴が聞こえる程言われてたのが、今回は言われなかったな。





 中央広場にやって来た。まずは聞き込みだ。
 依頼人は犯人について「緑色のバンダナ」をした連中だと言っていた。
 相当無茶をしているチンピラなら、当たっていけば辿り着くだろう。

 教会前、教会、大通りと、場所を変えながら何度も聞き込みをした結果。
 チンピラ達のグループ名が分かった。その名も「グリーンダイバーズ」。
 「赤き鷹旅団」という名も出たが、オレの依頼には無関係のようだ。
 ふと、盗賊ギルドの符丁が目に留まる。

「・・・聞くだけ聞いておくか」

 チンピラ達のバック、盗賊ギルドとの繋がりの有無の確認。
 金は要求されるだろうが、だからこそ得られる情報には信頼性がある。
 後腐れが無いのが分かれば、手荒くやっても大丈夫だろう。
 依頼人はむしろ、手荒くやってほしいのだろうし。

 薄暗く、狭い部屋で待っていると細身の男が入って来た。
 こちらの持っている情報を全て話す。

「あんたの役に立ちそうな情報は今のところ無いなあ」
「そうか、邪魔したな」

 どうにでも取れる言い回しだ。
 オレが知っている以上の情報が無いと言うのか、アンタッチャブルな連中だと言うのか。
 町で得られた情報からは、ギルドが絡んでるとは思えない、堅気を狙った荒っぽい犯罪ばかり。
 ギルドが目をつけているような事を言った者もいたが、案外ギルドの関係者だったのかもしれない。
 やってしまっても、よさそうに思える。





「ヒィィィィ!助けてくれえっ!」
「おーい・・・」

 落とした銀貨を拾おうともせず、チンピラ共が逃げていく。
 スラム街での聞き込み中に因縁をつけてきた男の相手をしたものの、手応えはまるで無かった。
 まさかあれがグリーンダイバーズとは思えないが。
 聞き込みを再開しようとして、こちらに向けられた視線に気がついた。

「兄さん、中々喧嘩慣れしてるじゃないの」
「・・・不本意だが、仕事柄な」
「目的は『グリーンダイバーズ』かい?」
「!?」

 近づいてきた男は、サラリとオレの狙いを言い当てた。
 おどけた様子の優男だが、隙は無いように感じる。

「警戒しなくたっていいさ。アイツら、おイタが過ぎたからな。そろそろ誰か来ると思ってたんだ」
「そうか」
「面倒は気にしなくていいと思うぜ。その先にある『エボラ』って酒場さ」
「・・・・」

 男はヒラヒラと手を振りながら立ち去った。
 盗賊ギルドのお墨付き、と考えるのはお気楽過ぎるか。





「エボラ・・・ここだな」

 店の外からでも下品な笑い声が聞こえる。
 オレは扉を引いて中に入った。

 店の中では、ガラの悪いチンピラ達が大騒ぎをしていた。他に客などいない。
 カウンターの隅で縮こまっているのは、この店のマスターだろうか。
 チンピラ達の話題はどこかで聞いたような内容だ。

「噂じゃ家族に逃げられたらしいぜ」
「俺だったら自殺しちゃうね」

 チンピラ達は大笑した。耳障りな事、この上ない。
 手加減できる自信も無いが、やり過ぎたら、その時考えよう。
 オレが黙ってチンピラ達の前に立つと、その中の一人がすごんで見せた。

「何だお前、ここは貸切だ。さっさと出てきな」
「お前達を叩きのめして治安隊に引き渡してくれって頼まれてな」

 オレの言葉に、再び大笑するチンピラ達。
 カウンターの中にいる男は気が気で無さそうな表情をしている。

「ぶちのめしてくれってわざわざ言いに来たんだ。望みどおりにしてやろうぜ」
「・・・お前達」
「あん?」
「信じる神があれば、祈っておけ」

 またも大笑するチンピラ達。
 いかにも愉快そうだ。

「馬鹿だ、馬鹿がいるぞ!」
「わけわかんねー!」
「・・・加減はするつもりだが、手元が狂う事もある」

 オレは剣を抜いた。
 チンピラ達も身構える。

「お前達のような屑共がいきなり押しかけたら、神様だって迷惑だろうが!」





 戦いはすぐにケリがついた。
 一番偉そうにしていた、唯一見分けのつく男を最初に仕留めると、後は一人ずつ潰すだけ。
 店内が少々荒れてしまって弁償も必要かと思ったが、カウンターで縮こまっていた男は、逆に感謝するばかり。
 やはりマスターだったようだが、あんな連中が居つけば商売にもなるまい。
 後は、こいつらを治安隊に引き渡せば依頼は完了だ。

「全く・・・動いても伸びてても、邪魔で迷惑な連中だな」

 荷車でも借りるか、それとも街路樹に縛り付けて通報するか・・・。
 オレはため息をつき、治安隊の詰所に向かって歩き出した。










 どうやら盗賊ギルドで抱いた僅かな懸念は、良い方向に外れてくれたようだ。
 もしかしたら周囲が持て余して放置していた事で、チンピラが増長したのかもしれない。
 彼らを目障りに思う連中がオレを好きに動かせて、手間を省いた可能性もある。

 チンピラがお縄になった途端、それまでの被害者が一斉に立ち上がった。
 治安隊もその声を無視するわけにいかなくなり、漸く重い腰を上げたら余罪が玉葱の皮のように、後から後から出てきて収拾がつかなかったらしい。
 その後は裁判、処罰と手際よく進み、グリーンダイバーズのメンバーに懲役刑が課せられたと言う。
 依頼人が言っていたように、友人が手を回したのかもしれない。

「それでベルント、依頼人から報酬とお礼の手紙を預かってるぞ」
「ん。どれどれ・・・」

 親父さんから受け取り、手紙の封を開いてみる。
 内容は丁寧なお礼の言葉と、妻子と共にリューンを離れる事が書かれていた。
 家族揃って暮らせるようになったのは、不幸中の幸いかもしれない。
 築き上げたものを置いて旅立つのは楽ではないが、このままリューンで生活するのはそれ以上の苦しみなのだろう。

 これからの依頼人一家に、幸多からん事を願おう。










シナリオ名/作者(敬称略)
愚者たちの報い/Wiz
groupASK official fansiteより入手
http://cardwirth.net/

収入・入手
450sp

支出・使用
青汁3/3

キャラクター
(ベルントLv2)
スキル/掌破、魔法の鎧、鼓枹打ち
アイテム/賢者の杖、青汁3/3
ビースト/
バックパック/

所持金
1870sp→2320sp

所持技能(荷物袋)

所持品(荷物袋)
傷薬×3、青汁3/3、薬草×5、万能薬×2、コカの葉×6、葡萄酒×2、イル・マーレ、聖水、うさぎゼリー、うずまき飴×2、魚人語辞書

召喚獣、付帯能力(荷物袋)
グロウLv3

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